夜霧のブルース
1963 スコープサイズ 104分
DVD
原作■菊田一夫 脚本■国弘威雄
撮影■高村倉太郎 照明■藤林甲
美術■木村威夫 音楽■伊部晴美
監督■野村孝
■荷役会社の社長(山茶花究)の前に姿を現した男(石原裕次郎)は、5分間だけ自分の話を聞くように社長を脅迫する。男はもともと上海生まれのヤクザだったが、神戸である女(浅丘ルリ子)を見初めて、自分を育ててくれたヤクザの親分(小池朝雄)の元から足を洗う決心をする。だが、組長の持ち出した条件は非情なものだった・・・
■所謂日活ムードアクションの一作で、「夜霧のブルース」の哀調溢れるメロディを効果的に挿入しながら、あるヤクザと純情な娘の恋の行方の残酷な顛末を、回想、大回想といった、師匠橋本忍のお得意の話術を駆使しながら技巧的に描き出す国弘威雄の脚本が秀逸だ。
■野村孝の演出もまた快調で、神戸の喫茶店で浅丘ルリ子に一目ぼれする場面の照明効果や、彼女をからかう学生たちを席で待ち伏せして一喝を浴びせる場面など、裕次郎のキャラクターを掴みきった的確な演出で、実に感動的だ。ただ、勿体無いのは、DVDのマスターの画調が明るすぎて、日活映画らしい照明効果の陰影の強さが消し飛んでいることだ。大映のDVDでも顕著な傾向だが、原版が明るすぎるためテレビやモニターを大分暗めに設定しないと、映画の質感が得られない。
■延々と続く回想シーンの末に、裕次郎が社長室で文字通り血の雨を降らせる凄惨な復讐劇を展開するのだが、二人の求めた小さな、ささやかな幸せが欲得ずくの汚い陰謀の犠牲として踏み潰される様子が入念に描き込まれているため、観客は、裕次郎の血まみれの殺戮劇に声援を送ることになる。だが、その復讐劇の行き着く先は、決してヒロイズムでも自己耽溺でもなく、ちっぽけな社会面の囲み記事でしかないという幕切れに醒めた視点が感じられる。
■小池朝雄が期待に違わぬ卑怯残忍なヤクザを演じ、浅丘ルリ子があどけない表情のなかに女の情念を沸々と滾らせる力演を見せて、役者たちの演技面でも非常に充実した作品だが、裕次郎をガスバーナーで拷問する土方弘の変質的なヤクザぶりが強烈に印象に焼きつく。ホントに怖いです、この人。