夜霧よ今夜も有難う
1967 スコープサイズ 93分
DVD
脚本■野上龍雄、石森史郎、江崎実生
撮影■横山実 照明■藤林甲
美術■坂口武玄 音楽■伊部晴美
監督■江崎実生
■東南アジア亡国の革命家を密かに故国へ出国させるように依頼してきたのは、4年前、結婚式直前に突然自分の前から姿を消した女だった...
■おなじみ裕次郎&ルリ子の日活ムードアクション。『おおかみこどもの雨と雪』とか見てるとあまりのドラマの薄さに頭がくらくらしてくるのだが、こうした映画を観ると、ホントに短いランニングタイムにそこまで盛り込むかという位、脇役についてもちゃんと濃厚なドラマが用意され、本筋に絡み合っている。こういうのが作劇というものなのだが、ほんとに近年の邦画のゆるふわムードには困ったものですな。
■実はもっと古い時期の映画かと思いこんでいて、浅丘ルリ子のメイクや髪型がすっかり60年代後半ムードだったので違和感があったのだが、昭和42年の公開作なら納得。とにかく裕次郎が経営するバーのセットが日活ならではの様式美で圧倒的な存在感。さらにシネスコ画面を活かした様式的な構図を多用して、さらに名手藤林甲のコントラストのきいた照明がリッチな陰影を刻んでおり、もう映像美の贅沢なオンパレードで陶然とする。裕次郎の甘い声と名曲のテーマソングがかぶされば、もう唯一無二のミラクルワールドだ。何から何までカッコよくて痺れる。
■終盤の銃撃戦も地味ながら秀逸で、内田稔の最期なんて上出来。ルリ子はここでは案外控えめな演技で、昭和30年代後半のような弾ける情念は抑えられている。というのも、そこを全開にすると主役の裕次郎を食ってしまうことにスタッフが気づいたからだろう。おかげで、本作はでっぷりしてはいるものの、裕次郎がカッコいい映画に仕上がっている。本当は女に捨てられて心に疵を負っていじいじしている煮え切らない男なんだけど、それがカッコよく見えるのが不思議。そのいじいじをどう具体的な言動で表現するかというところにカッコよさの秘密があり、脚本と演出の腕の見せ所なんだな。