刺さりましたか、確かに目玉の真ん中に!日本名作怪談劇場『怪談利根の渡し』

■3年ほど前に日本名作怪談劇場を観ていたので、そのうちの傑作について感想をサルベージしておきたい。1979年にテレビ東京系で放映された真夏の納涼番組。歌舞伎座テレビが製作で、京都映画が下請けで実質制作にあたり、低予算番組ながら総じて映像クオリティが高いのが特徴。また監督たちもなぜかノリノリで、映像的にも凝った意欲作が多いシリーズになった。京都の映画人は基本的に怪談映画好きですからね。(ホントか?)

■『怪談利根の渡し』は、さすがに岡本綺堂の有名原作で、趣深く不気味な怪奇譚だが、田中徳三大映時代の仲間である森田富士郎を連れてきてセットプールとスモークで『雨月物語』『近松物語』を再現するのには驚いた。しかし、大映京都とは全く画調、質感が違って、やっぱりネガからテレシネでリマスターする手法はアカンと思った。同じ森田富士郎の撮影でも、TV版座頭市は映画並みの陰影と質感で超絶リッチな映画タッチなのに、こちらは全体に明る過ぎて、照明効果が減殺されている。

■初期のネガテレシネはとにかくネガに映っているものはすべて再現するという方向性だったのでやたらと明るく、もともとポジを焼くときに薄闇に沈めるはず部分まで明るく映し出して、映像設計がぶち壊しになるパターンが多かった。最近のテレシネはさすがにもっと改善されて、諧調の幅と陰影を両立させるようになっているが。

■配役では海原小浜大木こだま・ひかりの登場も味わい深い。陰気で不気味な復讐譚にもちゃんと関西風のコメディリリーフを配置して、ドラマにメリハリを生んで飽きさせない。また、人情味の深い左右田一平の演技の上手さが際立っている。主演の船戸順の前半と後半の変貌ぶりの対比もよく効いている。

■原作の流れをかなり改変していて、原作ほどの興趣は無いのだが、「刺さりましたか、確かに目玉の真ん中に」という決め台詞を繰り返すことで、強烈なインパクトは生じている。原作に沿って、按摩の回想形式の方がしっくりくる気はするが。それでも本放送当時の視聴者に少なからずトラウマを植え付けた恐怖時代劇で、それほど予算もかからないし、誰かリメイクしませんかね。

■脚本:竹内勇太郎、美術:川村鬼世志、照明:釜田 幸一、音楽:牧野由多可

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