怪奇十三夜「おんな怨霊舟」 ★★★

怪奇十三夜 第六回 おんな怨霊舟 [DVD]
怪奇十三夜「おんな怨霊舟」
1971 スタンダードサイズ 48分
DVD
脚本■大石隆一
撮影■萩原 泉 照明■?
美術■柴田篤二 音楽■牧野由多加
監督■石井輝男


 風呂を積んだ売春船、湯舟で客を引く女は、許婚が迎えに来るのを楽しみにしていたが、釜炊きの男(吉田輝雄)は、やって来た許婚を殺して30両をせしめると、女も手にかけて、屍骸を河原に埋めた。馴染みの女を連れ込んで湯舟を乗っ取ってしまうが、殺した女の老母が訪ねてくるとこれも惨殺する。欲に眼のくらんだ人間達の殺し合いが続く・・・

 石井輝男の正統派怪談というだけで珍しいのだが、演出の冴えは後年の「現代怪奇サスペンス」に劣る。湯舟という極めて珍しい舞台設定がとにかくユニークで、もちろん「泥の河」よりも先だ。しかし、登場人物はすべてこの湯舟の近辺にいじましく棲息する人々なので、特に湯舟で売春行為を行う人間を差別しているわけではなく、むしろひとつの財産であり権利として流通しうる湯舟を我が物にしようと狙っているのだ。これは、そこに存在したはずの身分差別という問題を回避したというよりも、問題のあり様を差別という画一的な視点に還元することを拒む姿勢だろう、と言ったら言い過ぎだろうか。江戸時代という時代設定を実にリアルに把握しているとは言えないだろうか。

 石井輝男の演出は、練度から言えば他に優れた作品があるが、社会の最底辺に棲息する男女の命がけの浅ましく、血まみれの”生き様”をシャープな画面構成で見せて意欲的だ。湯舟の天井の前面に浮世絵が描かれ、畳の下の視点から男女の営みと殺し合いを描き出す。まるで鈴木清順だが、意識的に援用したのだろうか。

 すべての人間達が死に絶えて、それまで川岸に停泊していた湯舟が何かから解放されたように静かに河を降り始める場面が素晴らしく、怪談映画の幕切れとしては異様に荘厳な美しさだ。


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