感想
■舟木一夫の日活純愛三部作の二作目で、昭和42年度芸術祭参加作品。原作はなく、星川清司のオリジナルのようだ。旧制高校生の雄作は、ニシン漁で成り上がって、没落した自分の屋敷を買い取った筒井家の娘若菜と愛し合うようになるが、駆け落ちを約束した夜、特高に検束される。約束を果たせなかった若菜は泣く泣く許嫁の家へ縁付くが、父親は漁場で遭難し、椿屋敷は母親とともに焼失する。さらに自身は母親の遺伝か、眼病で視力を失ってゆく。。。
■第一作『絶唱』は封建的な旧家解体を描く、完全に傾向映画で、第三作の『残雪』も現代劇のなかにベトナム戦争下の大学生の戦争への危機感を強く打ち出して立派に傾向映画だったのだが、本作は左翼思想を疑われて特高に引っ張られる場面はあるものの、そうした思想的な要素は意外にも薄い。それは星川清司が脚本を書いたせいかもしれないが、そもそも本作は滅亡への傾斜を描くゴシックロマンであるためだろう。
■劇中で何度か繰り返されるのが筒井家の屋敷に根を張る白椿の大木で、不吉な言い伝えがあるらしいのだが、実際、この屋敷に住んでいた島村家は没落して屋敷を手放し、ニシン成金でそれを買い取った筒井家も次々と死人を出し、娘の若菜さえ盲目となり、宿命に耐えながら愛しぬいた恋人も唐突に喪うことになる残酷な運命を描き出すことになる。だが、そのタッチはあくまで懐旧的で叙情的なのだ。そしてあまり説得力がない。そこがこの映画の弱点で、西河克己はむしろ喜劇が上手い人で、泣かせる映画はどうも冴えない。
■そもそも、かなりゴシックなお話で、呪われた屋敷を主人公とするのなら、それなりの演出手法があったはずで、完全に因果怪談として描いたほうが面白かろう。過去に椿の因縁で死人が出ていた因果物語がフリとしてあり、舟木と松原の二人の純愛が因縁に蝕まれてゆく怪奇な悲劇を描いてくれれば、個人的には大好物なのに。そのときには、岡本綺堂の怪奇小説などがいい参考になるはずだと思うぞ。ああ、完全に怪奇趣味の世界ですね。