『巨神兵東京に現わる』と特撮博物館

■7月13日に東京都現代美術館で開催中の特撮博物館に出かけてきた。いろいろと複雑な思いもあったが、行ってみるとやっぱり特撮心に火がつきますなあ。3時間半くらいしかいられなかったが、もう一度行って、じっくり展示物を見直したいし、1回しか見ていない『巨神兵東京に現わる』をもう何回か観たい。特撮美術倉庫には円谷時代に活躍したミニチュアがそのまま飾ってあったりして、あまりのでかさに驚愕することもしばしば。『妖星ゴラス』の津波に飲まれた列車なんて素材も含めて物質的な存在感が凄い。単にミニチュアという概念を超えたれっきとした実在物という主張が感じられる。

■今回のイベントは宮崎駿庵野秀明という2大カリスマの著名キャラクターあってはじめて成立した企画だろう。さらにそこに樋口真嗣というカリスマが加わって、三大カリスマが集結したわけだ。正直、単に特撮用のミニチュアとかキャラクターを集めただけでは、こんなに大きなイベントにはならなかっただろうし、これだけの観客も集まらなかっただろう。さらに博覧会用の短編映画の製作というのも、非常にうまいアイディアだった。正直あまり期待はしていなかったのだが、樋口真嗣が久々に特撮監督を担当して、さすがに見ごたえのある特撮大作になっている。そして、そのメイキング映像も非常に興味深いし、撮影に使用されたミニチュアも展示され、至れり尽くせり。販売される図録にも、メイキング冊子がセットされ、これがまた見ごたえ満点。特撮メイキング図書で本当に久しぶりに涎が出た。近年、メイキングといってもCG技術の解説とかデザイン画ばかりというさびしすぎる状況だったので、メイキング写真とメイキング映像には激しく燃えた。

■『巨神兵東京に現わる』は、巨神兵エヴァが合体したような作りで、モノローグはいかにもエヴァ風で、正直大人の観客にとっては勘弁して欲しい代物なのだが、完全CG抜きで撮影された特撮シーンは、いったいいくら予算をかけたのかと心配するほどのミニチュアワークの大盤振る舞い。人物を写真の切り抜きで表現したカットは、最初何の冗談かと頭を抱えたが、巨神兵の大破壊シーンの連続は清々しいほどの壮絶さ。撮影に使用されたミニチュアはありものの使い回しも多いようだが、看板等の細部の飾り付けに凝っており、オープン撮影では実写にしか見えないカットが多いし、豪快な爆破シーンは平成ガメラですら(予算の都合で)描かれなかったほどのスケール。美術は三池敏夫、稲付正人のベテラン陣で抜かりがない。本作はミニチュア特撮の魅力を再発見すると同時に、ミニチュア特撮の技法に新たな工夫を付け加えることにテーマがあり、ミニチュア破壊の手法に2つの新方式が開発されたが、これがまた絶品で、ミニチュアビルの崩壊には息を呑んだ。さらに、背景はすべてデジタル合成ではめ込まれており、『ノストラダムスの大予言』的な都市破壊の後ろめたいカタルシスを満喫させてくれる。さらには『メカゴジラの逆襲』的なミニチュアセットの土台ごと吹き飛ばす方式の大爆破も行われ、惚れ惚れするくらいに素晴らしい破壊シーンとなっている。東京タワーと増上寺の破壊シーンもほんとに凄い。これは樋口真嗣による『世界大戦争』だ。

巨神兵文楽方式で操演するという新趣向も成功しており、これは特にメイキング映像を見ると、誰しもため息が出るほどの見事なアイディア。あまりいつでも利用できる方式ではないが、これくらいの工夫と技術開発は映画制作ごとに1つくらいはしておけよな、というメッセージなのだ。特に日本の特撮技術はデジタル技術については日進月歩で、確実に進化し続けてきたのだが、フィジカル・エフェクトについては、あまり目立った進歩が見られなかったのだ。そもそも、映画製作に予算的な余裕がない状態が長く続いているからだが、今回のスタジオ・ジブリの英断は画期的といえる。願わくば、この問題意識を持って、スタジオ・ジブリで長編特撮映画を製作してくれないだろうか。実際、この短編映画で撮影された数々の特撮シーンに、新撮のドラマを組み合わせれば、長編映画が1本できてしまうのではないかと思うのだが。

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