黒い絨毯 ★★★

THE NAKED JUNGLE
1954 スタンダードサイズ 95分
DVD

■動物パニック映画の先駆けで、ジョージ・パル製作による古典。昔はしょっちゅうテレビで放映していたが、DVDで初めてノーカット版を観た。

■ラストのマラブンタに襲撃された農場を水没させることで撃退するスペクタクルは、どこまでがミニチュアでどれがフルスケールセットなのか判別できないが、明らかにスタントで本物の激流に飲まれるカットがあり、唖然とする。特撮は円谷英二も多大な影響を受けた名手ジョン・P・フルトン。

■しかし、この映画の美点はマラブンタの襲撃をサスペンスとしてじわじわと提示しながら、エリノア・パーカーチャールトン・ヘストンという奇妙な形で結びつくことになったカップルの、セックスを焦点としたドラマの組み立ての巧みさにある。エリノア・パーカーが処女ではなかったことに拘り、童貞を捧げる相手として相応しくないという強迫観念に突き動かされるチャールトン・ヘストンが、”ピアノは新品よりも使い込んだもののほうがいい音色が出る”という事実(露骨に性的な比喩)を受け入れ、バツイチの女と結ばれるまでのドラマが、マラブンタの大群を一掃する人工洪水をエクスタシーの表現として描き出される。

本多猪四郎東宝特撮でも性的な隠喩に基づく作品が少なくない(特に「地球防衛軍」「海底軍艦」「マタンゴ」など)のだが、特撮スペクタクルと人間ドラマというマクロとミクロを映画的に両立させる際に、セックスをモチーフに用いるという点で共通項を見出すことができるのは非常に興味深い。さらに言えば、樋口真嗣の「日本沈没」なんてまるっきりこの映画をお手本としているとしか思えない。

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