想定外の脅威に科学力も軍事力も無力だった!でも神を蔑ろにするものは滅び去る運命なのだ!『宇宙戦争』

基本情報

The War of the Worlds ★★★☆
1953 スタンダードサイズ 85分 @アマプラ

感想

■こちらも随分久しぶりに見直しましたけど、なかなか面白いですね。アマプラの配信原盤はリマスター版ではないので、本来のテクニカラーのゴージャスさは微塵も残っていないけれど、それでも映画としての強度は今観ても新鮮。

■火星から飛来した侵略兵器に十字架をかざして、話し合えばわかるはずと理想主義的な交渉を試みた牧師が敢えなく蒸発するまでが第一幕、ロスを拠点とする侵略拠点に対し必殺必中のメガトン級核攻撃を行うが刃が立たず、米軍が退却(転戦?)するまでが第二幕、第三幕は主人公が火星人ではなく暴徒化した民衆によって行方を見失った恋人を求めて死都ロサンゼルスを彷徨する。でも、その探索先が避難所となっている各地区の教会であるところがこの映画の肝。

■『地球最後の日』でも聖書を下敷きとした空想科学映画を製作したジョージ・パルはここでも、聖書と神を基調にした空想科学映画を試みる。『地球最後の日』ではバイブルがその役割を終えたと思ったら、新たなチャプターが追記されることになるという、聖書の再生の物語だったけど、本作はより直截に宗教映画的で、地球は神の恩寵による奇跡で火星人を駆逐する。

■それは科学力でも、軍事力でもないというところが原作どおりとはいえユニークなところで、第三幕がほとんど教会の中で展開するのも異色と言えるだろう。少なくとも、東宝特撮ではありえない。人類はみずからの理性や心性や意志によって地球で生き残るのではなく、神の仕組んだ、目に見えないほどに小さな奇跡(命)によって、その特権を剥奪される危機を脱したのだ。キリスト教的と言うよりも、これはむしろ法然親鸞的な発想であり、諦念ではないか?

■地球を火星人の脅威から救ったのは人類の英知ではなかった。なんとなく神様が人類を救ってくれたようにも見えるけど、それは人類中心主義で考えるからであって、神様が本当に愛でているのは、丹精込めて創造した眼にも見えないような膨大な細菌やウイルスや微細な病原体といったプチ可愛い奴らではないか。神様にとって、本当に可愛くて仕方ないのは、人類やクジラや象といった巨大な動物ではなく、むしろ人類の眼には見えないけど、そこら中にくまなく蔓延していて、神の目だけには明らかに捕捉される極小の微生物たちなのではないか。(小松左京の短編にもそんな話があったなあ。神様の前で細菌が人類の命乞いをするやつ)じゃ、人類にとって神って何?SF凄いね!

ジョージ・パル製作の一連のSF作品は意外と特撮場面は限定的で、それほど大規模ではないのが特徴。後の東宝特撮映画によって参照され、田中友幸的にはもっと派手な特撮スペクタクルがたくさん観たいので、特撮場面がボリュームアップして、物量的にスケールアップし、当時の基準で考えると明らかにハリウッド映画よりもコスト・パフォーマンスが良すぎるので全世界で売れたわけですね。それに、伊福部昭の音楽性は完全にハリウッド映画を凌駕しているので、この部分の商品価値も絶大だったはず。

■だから東宝特撮映画に比べると地味に見えてしまうのだけど、本多猪四郎バイロン・ハスキンを並べて鑑賞すると、その演出の力点の置き方の違いが面白い。本多猪四郎のほうがリアル寄りで、宇宙的危機が起こっても、日本では民衆の暴動は起こらず、公務員は淡々と最後まで仕事をこなす。そういう人間観であり世界観。いっぽうバイロン・ハスキンは当然のように人倫の限界を暴徒として描き、人類の最後の希望である火星人の血液サンプルまでも暴徒によって奪い去られる。どちらもリアルな人間観察に基づいていると感じるし、その描き方の差に深く感動する。

宇宙戦争 (字幕版)

宇宙戦争 (字幕版)

  • レス・トレメイン
Amazon

参考

バイロン・ハスキンという監督、なかなか筋の良い人だったらしい。こちらも、特撮スペクタクルなのに心理的にナイーブな性的寓話。
maricozy.hatenablog.jp
▶『宇宙戦争』に比べるとその物量的なスケールの大きさに圧倒されますね!発展途上国で相対的に物価が安かったからだね!
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
▶『モノリスの怪物』は知られざる秀作SFです。特撮技術的にはこちらのほうがリアルです。その筋の人は必見です。
maricozy.hatenablog.jp

© 1998-2024 まり☆こうじ