十戒 ★★★

The Ten Commandments
1956 ヴィスタサイズ 232分
DVD

■おなじみ、セシル・B・デミルが、神に選ばれし預言者モーゼの生涯を描く超大作。でも、60年代の3時間映画がイタリアやスペインで巨大セットを組んで一発撮り主体で撮られたのに比べると、なにしろ50年代のことなので、基本はハリウッドのステージ撮影で、背景はスクリーンプロセスやブルーバック合成で作られているのが大きな違い。クライマックスの大特撮は有名だが、それ以外にもブルーバック合成が大量に使用されており、いかにもマスクの抜け切れていない合成カットが散見させる。当時の技術水準の限界だが、スペクタクル場面もフルスケールで撮ることが見せ場となった60年代の諸作と比べると明らかに趣が異なる。

■エジプトの王になろうとするモーゼが出生の秘密に触れ、ヘブライ奴隷解放の志を得、シナイ山で神の声を聞くまでが前半、後半は出エジプトから神が直接山肌に刻んだ十の戒律を得、蜜と乳の流れるカナンの地を目前にモーゼが天寿を全うするまでを描く。しかし、モーゼ自身は案外ドラマチックではなく、途中からは人間ではなく預言者になってしまうから、心理的な葛藤が消え去ってしまう。

■反対に、優秀なモーゼに嫉妬し、モーゼの愛する女に自分の子供を生ませてやる!と、どす黒い怨念を燃やすユル・ブリンナーの方が、映画的なキャラクターとして際立っている。特に後半、例によって(たちの悪い)神の呪いで、エジプト中の長子が死亡するという災厄の中で、一人息子を失い、モーゼに復讐の炎を滾らせるあたりの演出は名調子で、燃えに燃える。観客はここでは、完全に悪役に感情移入させられるのだ。

■一方で、モーゼと愛し合い、出生の秘密を知る下女を殺害までしながら恋仲を裂かれ、ラメセスと夫婦にされるネフレテリを演じるアン・バクスターがまた絶品。悪女に変貌してゆく様子がスリリングで、セシル・B・デミルケレン味のきいた演出が冴え、モーゼ、ラメセスとの三角関係がこの映画の一番の見せ場である。

■それにしても、旧約聖書の神は相変わらず暴虐の限りを尽くし、罪もないエジプト人の長子たちを皆殺しにする。その前に、エジプトのファラオが同様の惨殺を行ったことを受けての呪いだが、神様のやることじゃないよね。エジプトを脱出したイスラエルの民を試すために40年も荒野を彷徨わせたりと、したい放題に人間をいたぶる。

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