『タイムマシン』

基本情報

タイムマシン
(THE TIME MACHINE)
1960/VV
(2002/8/3 DVD)

感想(旧HPより転載)

 1899年の年末、タイムマシンを発明した主人公(ロッド・テイラー)は戦争を繰り返す今の世界を嫌悪しつつ、人類の未来に希望を託して未来世界を垣間見るためにタイムマシンを駆るが、人類は絶望的な核戦争に突入することを知る。絶望に苛まれながら、80万年後の世界へ到着した主人公は人類がまだ生き延びて、楽園のような世界に住んでいるのを目撃するが・・・

 1950年代から60年代にかけて良質なSF映画の古典を発表したジョージ・パル製作、監督による古典的傑作なのだが、見るからに明らかな低予算作品で、タイムマシンのクラシカルなデザインと未知の世界への希望をくすぐるテーマ曲は秀逸なものの、数々の特撮シーンはアカデミー特殊効果賞の受賞が嘘と思えるほど貧弱で貧乏くさい代物で、特撮スペクタクルとして製作された映画では決してない。むしろアマチュアの8ミリ映画のようで微笑ましいものだ。この映画の前年に円谷英二は「宇宙大戦争」を撮っているのだから、確かにこの時期の東宝特撮は”世界に誇る”表現様式であったことが納得できる。

 しかし、当時のこの種の映画の中としては最低限の辻褄があっているし、偏屈な発明家を末永く讃え続ける友人との素朴な友情の交歓をさらりと描きだしたあたりの映画的な愉しみも捨てがたいし、80万年後の未来世界の残酷な図式劇も原作に負うところが多いとしても、眼光を爛々とさせながら奴隷であり食料でもある人間を狩るモーロック族の醜悪さと不気味さはゾンビの到来を予想させて秀逸なものだ。まあ、確かに地下世界のセットもほとんど1セットの中で撮りきったもので、制作事情の悪さが顕著に現れている苦しさを隠せないのだが。

 ラストのちょっと捻った結末の巧さは原作どおりなのか脚本家の創作なのか知らないのだが(どうも脚本家の着想らしい)、こうした余韻を残す鷹揚な幕切れなど今般の映画には望むべくもない贅沢さを味わわせてくれ、特撮の拙さとか未来世界の美術セットの貧弱さなどを綺麗に忘れ去らせてくれるから不思議だ。

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