白虎隊 ★★★☆

脚本■内館牧子
撮影■仙元誠三 照明■安藤清人
美術■井川徳道 音楽■大島ミチル
操演■鳴海 聡 VFX■北 昌規、佐藤敦紀
監督■橋本 一


 気高く生きるとは気高く死ぬことと会津武士の誇り、会津魂を叩き込まれた少年たちが、やがて訪れる戊辰戦争におて白虎隊として新政府軍との戦闘において悲劇的な結末を迎えるまでを正味4時間強の前後編で綴るビデオ撮影による時代劇大作。東映京都の意地を感じさせる力作である。

 薬師丸ひろ子が病弱な母親を演じて、息子(山下智久)が未練を残して会津のために潔く死ぬことに躊躇いを残さないように、敢えて厳しく接する母心を念入りに描き出す。このあたりは、内館牧子が女性観客向けにこれでもかと執拗に繰り返して描写するため、クドイ気もするが、橋本一の粘りの演出と薬師丸ひろ子の力演で、ついつい引き込まれて将来の悲劇を予感させ、涙させる。

 なによりも楽しみだったのは、「仁義なき戦い・謀殺」「極道の妻たち・情炎」で正統派の技巧と斬新さへの意欲を見せた東映生え抜きの俊才・橋本一(課長待遇)の演出ぶりなのだが、ベテランスタッフに支えられて堂々たる余裕の仕事ぶりを見せ、こうした大作では監督はもっぱら大プロジェクトの調整役に終始して演出家としての個性を発揮しにくいものだが、本作ではいかにも橋本一らしく娯楽映画の王道の担い手としての意気込みが確実に彫り込まれており、実に立派である。

 それは例えば、東映らしい威勢の良い流血であり、脇役としてのオッパイでもあるが、母親の情感のこもった見せ場を長廻しでじっくり描けば、戦闘場面では戦隊シリーズ的な細かいカット割を駆使してメリハリの効いたリズムを作り出す。野戦場面は、会津での鶴ヶ城の攻略などはVFXが多用されるが、スケールの大きなロケ撮影による一発撮りにも意欲を見せ、映画なみのスケール感を確保している。実際の話、フジの「明智光秀」に比べると、撮影も照明もこちらのほうが映画的であり、豪華である。仙元誠三も、久しぶりに大作を手掛けて、端正さと柔軟さを併せ持つ貫禄を見せる。

 母親から死ぬことばかりを叩き込まれて成長した主人公(山下)が、会津戦争に参戦して生きて戦い抜くことを選択し、城内で母と再会して、母は初めて素直に息子が生きていることを喜ぶことができるという段取りが後半の眼目なのだが、戦場のリアルな表現に限界があるため主人公の変心の部分があまりに軽いのが珠に瑕。

 一方、会津の地を戦火から守るため官軍に対する恭順を主張し卑怯者と指弾される西郷頼母小林稔侍)と、その一族の悲劇的なエピソードはいかにも東映時代劇らしいよくできた脇筋で、感動的だ。その妻を演じる浅野ゆう子の演技的な限界は残念だが、自刃して息絶え絶えの一族の女が屋敷に乱入した官軍の若い兵士に介錯を求める場面など、時代劇ならではの名シーンといえるだろう。

 VFXも多用されるが、これはフジの「明智光秀」のほうに軍配が上がる。後編の炎上する会津藩の情景などは、これまでなら特撮研究所東宝映像がミニチュアワークで描き出す場面だが、全てデジタル映像処理による。せっかくの大作なのだから、特撮研究所を絡めてミニチュアワークも活用すべきだったと惜しまれる。

 やはり「大奥」は橋本一に任せるべきだったと痛感する。というか、東映本体の製作する映画は当面、全部橋本一に任せるのが賢明だと思うぞ。

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