八重の桜 ★★★★

八重の桜 完全版 第弐集 Blu-ray BOX
■実はNHK大河ドラマを通しで観たのはほぼ初めてのことなので、これまでの作品と比べてどうなのかは言えないが、それでもかなりの傑作ドラマであったと自信を持って言える。1年間のドラマの締めくくりを、女傑となった八重が、日露戦争にむけて戦意高揚の世論を誘導しようとする徳富蘇峰に諭す場面とした脚本家の意志の強さを確認しよう。

■全編の三分の二くらいを費やして、いかにして会津戦争が始まり、いかにして終結したかをかなり克明に描いてみせ、明治維新がいかになったかを、敗れた者の視点から照射する。どす黒い血にまみれた日本の維新の姿を活写している。それは決して「江戸城無血開城」などではなかったことをよく描いている。最終回の慶喜と勝の対面場面で描かれるとおり、それは地方の犠牲の上になっているのである。

■何故、会津が維新の生贄にならねばならなかったのかを、何故フクシマに原発が置かれなければならなかったのかと重ね合わせ、浮かれたような右傾化、”戦争できる国”を取り戻そうとする危険極まりない安倍政権の動きとそれに迎合するNHKの姿勢に真っ向から「否」を投げかける勇気ある脚本家にエールを送ろう。

■ラストで、鶴ヶ城で篭城戦を戦う八重に初老の八重が対面する場面は感動的で、一発の弾丸が残っているとすれば、今ならこう使うだろうと、暗雲に閉ざされた天空めがけて一発撃つと黒雲がたちまち晴れ渡ってゆく象徴的な場面は脚本家の言わんとするところを巧みに描いている。「弾はまだ残っとるがよ」

■そしてその弾は敵にではなく、暗雲のように人々を黒く包み込む戦争、それを招来した「状況」そのものに向けられている。あるいは、あの弾丸は太陽に向けられて発射されたのかもしれない。脚本家の名は、山本むつみという。

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