相棒IV 首都クライシス 人質は50万人! 特命係 最後の決断 ★☆

相棒-劇場版IV-首都クライシス 人質は50万人!特命係 最後の決断 Blu-ray通常版
相棒IV 首都クライシス 人質は50万人! 特命係 最後の決断
2017 スコープサイズ 120分
DVD
脚本■太田愛
撮影■会田正裕 美術■近藤成行
照明■松村泰裕 音楽■池頼広
VFXプロデューサー■戸枝誠憲 VFXスーパーバイザー■宮島荘司
監督■橋本一

■正月スペシャルの『サクラ』も観たんだけど、微塵も面白くなかったので、評判がいいらしい映画版はいかがなものかと興味を持って借りてきたよ。太田愛は平成ウルトラシリーズで詩的な傑作をいくつも書いた逸材なのだが、その後はなぜかミステリー寄りに軸足を移し、遂にミステリー小説で作家デビューする。正直、作風がかなり変わったと感じる。小説を書くにしても、むしろファンタジーだと思っていた。相棒を観ても、詩的な発想よりもすっかり社会派ミステリーになっている。

■本作も『サクラ』と通底する社会派ミステリーではあるのだが、サスペンスにもミステリーにもなっていないと感じる。そもそも映画として魅力がまるでない。監督は橋本一なのに、映画らしさがまるで感じられないのはどうしたことか。太平洋戦争に遡る動機の解明にしても謎がするりと解けて溜飲が下がるといったカタルシスは無く、英国大使館の大量殺人事件もまったくリアリティがないし、終盤に向けて加速するサスペンスも立ち上がらない。水谷豊がぺらぺら全部説明してしまうからだ。そして困ったことに犯人側の人間がまったく描けていないし魅力がない。鹿賀丈史も山口まゆも、全く説得力がなくてファンタジーにしか思えない。やたらと風呂敷を大きく広げるのだが、裏打ちとなる人間のリアリティが欠けているから、すべてが薄っぺらい絵空事にしか感じられない。そうか、太田愛のファンタジー路線は社会派ミステリーという煙幕の中に健在であって、それがうまく噛み合っていないのかもしれない。

太田愛はすっかり大家になっているようなので、少々苦言を呈しても支障ないだろうと考えるが、相棒のフォーマットには資質的に合っていないのではないか。太田愛本格ミステリーの人ではなく、あくまで犯人の動機に弱者のドラマを見出す人であって、それを詩的なあるいはファンタジー的な発想でドラマに昇華させることのできる人であるはず。映画版やTVスペシャルを見るにつけ、相棒というフォーマットとの祖語を強く感じる。正直、こういったお話なら柏原寛司とか丸山昇一とかの大御所が書いた方がすっきりとした綺麗なサスペンス映画になるだろう。

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