太陽の傷 ★★★

太陽の傷
2006 ヴィスタサイズ 117分 @DVD
脚本■大川俊道
撮影■金子正人 照明■田村文彦
美術■坂本朗 音楽■遠藤浩二
CGIプロデューサー■坂美佐子  CGIディレクター■太田垣香織
監督■三池崇史


 ホームレスに暴行を加える少年達を叩きのめした片山(哀川翔)だが、リーダー格の神木(森本慧)は逆恨みから片山の幼い娘を惨殺する。少年法に守られた犯人と対照的に、娘を喪った妻は病院の屋上から飛び降り自殺をはかり、片山は友人の奨めで横浜に移住して仕事に没頭して全てを忘れようとするが、神木が仮釈放され、地元に戻っていることを知り・・・ 

allcniemaでは、「少年に娘を殺された男の怒りと苦悩を見つめたサスペンス・ドラマ。少年法に守られた犯人とは対照的に、マスコミの好奇の目にさらされ、追いつめられていく被害家族の姿を描く。」と紹介されているし、製作会社シネマパラダイスのHPでも同様の社会派映画のような宣伝が行われているが、実際の映画は、決して社会問題を告発し、観客を啓蒙する社会派映画ではなく、あくまでVシネマのルールに則った正攻法のアクション映画である。なにしろ、哀川翔はのっけから無敵の強さを誇示し、苦悩といった心理表現からは遠く離れて、飄々と孤高の存在感を漂わせ、ラストはお決まりの廃墟での銃撃戦を勝利するのだ。

 ひょっとすると大川俊道のオリジナル脚本ではもっと社会派映画風だったのかもしれないが、完成作はウェルメイドなアクション映画であり、その中に、特に前半部分においてサイコホラー映画の恐怖感を味わわせ、異常な猟奇犯罪への怒りを煽る。このあたりは、さすがの三池崇史も間接表現に頼っているが、それでも十分に犯罪の異常性を煽っており、純粋に怖い。

 青年となった神木がやはり狂っていることが明らかになる後半の新展開も、脚本家のいい仕事ぶりが生きているが、ラストを銃撃戦に持ち込む神経はよく判らない。それでいて、上記のような社会派でございという宣伝を打つ無神経ぶりは、如何なものか。あるいはオリジナル脚本は、単に「狼よさらば」を狙っていたのだけではないかと推測するのだが。

 この映画の真価はそんなところにあるのではなく、神木という悪魔によって無理やり形作られた人間心理の地獄の渦中にあって、哀川翔が示す透徹した超人間像の描かれ方にあるのであって、この映画はむしろ黒沢清の「復讐」や「蛇の道」に連なる、”地獄映画”に属するものである。実のところ、本作は黒沢清に撮ってほしかった。

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