『怪獣大戦争』

基本情報

怪獣大戦争
1964/CS
(2004/7/30 レンタルDVD)
脚本/関沢新一
撮影/小泉 一 照明/小島正七
美術/北 猛夫 音楽/伊福部 昭
特技監督円谷英二 監督/本多猪四郎

感想(旧HPより転載)

 今更言うまでも無いお話なので、概要は省略するとして、関沢新一の話芸が炸裂する前半の展開の面白さは、昨今の考証第一のヲタク世代には共有できない代物かもしれない。宇宙空間からキャバレーの壁に描かれた夜空に繋ぐ場面転換なんて洒落たまねは、今時の世知辛い映画作法ではあり得ない話法だろう。

 本多監督の演出もこの時期絶好調で、土屋嘉男の”宇宙演技”が炸裂する統制官の雄姿を惚れ惚れと観ているだけで、予算の削減も気にならないから、演技こそもっとも有効な特撮といえるのかもしれない。ニック・アダムスと名コンビの水野久美もたいして演技的な見せ場があるわけでもないのに、爛熟に差し掛かった女の情感を画面いっぱいに発散してヤバイほどの色気を見せつける。この時期の水野久美を主演にして増村×若尾コンビのような女性映画を企画しなかった東宝の企画力の貧困さを怨む。

 全体に安手な作りが顕著で、田崎潤率いる宇宙局の面々の頼りないこと、セットの貧弱なことといったら、「妖星ゴラス」や「モスラ」等の絶頂期の半分程度のスケール感も欠いている。予算規模的には怪獣映画の成立するギリギリの予算だったのではないかと思われる。実際、困り果てた円谷組は「空の大怪獣ラドン」からの抜き焼きを多量に挿入し、怪獣の活躍の舞台も富士山麓の田舎町に限定し、ミニチュア・ワークを縮減して、スケールの大きさを見せるのは意欲的なレイアウトの合成カットにすべてを賭けているように見える。

 この時期のゴジラは人間振りが顕著なのだが、とにかくやたらとよく動く軽快さが魅力。X星人の電磁波コントロールから開放されたゴジラが意識を取り戻すときの、目玉をキョロキョロ動かすキュートなギミックが素晴らしい。

 ちなみに、DVDに収録された土屋嘉男のコメンタリーは、黒沢映画や「地球防衛軍」「マタンゴ」「ガス人間第1号」と話題も豊富で、井伏鱒二太宰治三島由紀夫といった文豪まで登場する豪華版で、性格俳優土屋嘉男の人となりをよく伝える聞き物だ。ただし、本編の画質はちょっと色あせたニュープリントといった程度のもので、お世辞にも高画質とは言いがたい。

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