コングは経費で落ちますか?『キングコング対ゴジラ』

基本情報

キングコング対ゴジラ ★★★☆
1962 スコープサイズ 97分 @APV

アマゾンプライムビデオでHDリマスター版を観たけど、4K版ではないので、画質はそこそこ。昔の修復版は16ミリフィルムを足しこんでいたので褪色と雨降りが凄かったものだが、その後カットされた部分が発見されたとかで、HDリマスター版はそこについては案外キレイでビックリ。逆に元々の場面のほうが画質的に怪しいとところがあって不思議に感じた。発色も解像度も全体にいまいち。

■『ゴジラの逆襲』に続いて東宝名物サラリーマン映画と怪獣映画のハイブリッド作で、どうしてもゴジラ映画はサラシーマン映画と合体させたいという強い意志が感じられる。本作は昭和37年の製作で、東宝特撮としては昭和36年の『モスラ』『世界大戦争』、昭和37年の『妖星ゴラス』あたりでシリアスな地球滅亡規模の特撮SFドラマの製作においては内容的、物量的なピークを打っており、ゴジラの復活については、興行的な都合が優先された感が強い。ついに本作では東宝名物サラリーマン喜劇とゴジラ映画の融合が試された。

■ついに怪獣も資本主義機構に取り込まれ、民間企業が怪獣をコントロールしようとする。ただ、テクノロジーが追い付いていないので、十分に制御はできない無責任さ。まあ、もともと本家の『キング・コング』を踏襲しているので、そもそも怪獣映画は資本主義に対する批評という通奏テーマは、まあお約束の付き物ではある。ただ、喜劇としたことについては封切り当時のキネ旬で喜劇演技が大げさだと相当批判を受けているけど。実際、有島一郎は色んな引き出しがある人だけど、ここでは思いっきり臭い芝居をしている。怪獣を商売に使おうという奇天烈なモーレツサラリーマンだから、これくらいやらないと怪獣に対抗はできないという計算だろう。

■それでも南下するゴジラ特急つがるの遭遇シーンの前後は脚本の話術の上手さが際立つし、本多演出の物量の厚さがやはり余人をもって代えがたい実直な演出ぶりですね。特撮パートは案外シンプルにゴジラの進撃が撮られていて、本編との合成カットもなく、カットバックの編集だけで見せ切るあたりも凄い余裕ですね。それでいて過不足がない。何度観てもうっとりする名場面。浜美枝が体当たり演技的に妙に生々しい演技を見せるのも、本多監督の演技指導によるものだろう。

増村保造の傑作『巨人と玩具』の製菓会社の過当競争を意識したものか、本作では製薬会社のライバル競争が描かれていたはずだが、ライバル社は直接登場せず、サラリーマン映画としての骨格はあまりうまく機能していない。終盤はコングとゴジラの対決がメインになるのは仕方ないとして、ドラマの締めくくりが、平田昭彦による生命力の偉大さを賞揚する台詞というのは、なんだかドラマがすり替わってしまった気がする。全人類に死を振りまきかねない驚異的存在だったゴジラもすっかり神秘なる生命力の象徴となり、『ゴジラ』で古生物学者志村喬が主張したところを平田昭彦が受け継ぐというなかなか気の利いた高度な本歌取り(?)が行われているわけだが。

■ここはやはり、落胆したかにみえた有島一郎が次なる奇抜な一手を考案して、コング、ゴジラに引けを取らないエコノミックアニマルの本領を発揮する生命力(商魂?)を見せつけるとか、もうひとひねりないとドラマが締まらないよね。高島忠夫に、あんたの方がよっぽど怪獣だよと批判されて終わるとか。(ありきたりだけど...)

■しかし、最後はコングが自分で泳いで帰ってくれて助かったよね。復路の輸送費が浮きました。でも、その他の損害賠償に関しては法律問題や経理上の問題が山積みで、当時の観客だったサラリーマン諸氏は考えるだけで憂鬱になったのではないか。


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