『月下の恋』

基本情報

月下の恋
(HAUNTED)
1995/スタンダードサイズ(トリミング版)
(99/2/5 V)

感想(旧HPより転載)

 劇場公開時は「月下の恋」というイギリス文芸映画的なタイトルだったのだが、ビデオタイトルは原題の「ホーンテッド」としてリリースされているので、ご注意を。

 3年前わざわざ千日前国際劇場(だったかな)まで観にでかけたかいのある幽霊映画の佳作だったのだが、今回改めて観直してそのことを再確認した。

 幼い頃双子の妹を事故で死なせた過去を持ち、幽霊の実在を否定する心理学者が幽霊が出るという邸の調査を依頼され、そこに住む娘と恋に落ちるが、邸の怪異に出逢ううち、彼の前に妹の幻影が出没しはじめる。妹の亡霊は彼を死の淵に誘おうとしているのだろうか?

 監督はイギリス映画界の重鎮(?)で007シリーズでも有名なルイス・ギルバートで、撮影監督は「眺めのいい部屋」等ジェームズ・アイボリー監督との文芸映画で注目されたトニー・ピアース・ロバーツ、製作総指揮がフランシス・フォード・コッポラという布陣で、それなりのA級映画だが、れっきとしたホラー映画、しかもかなり古風な幽霊映画として成功している。なにしろ、この素材をシェパートンスタジオで撮影しようというのは、「回転」に触発されているに違いない。

 いわゆる怪奇映画的なハイコントラストで陰鬱な画調ではなく、撮影にはフジフィルム(!)を使用して独特の淡彩な色彩と薄暗さを引きだそうとしており、ときたま無理矢理なショックシーンを挿入したりはするものの、物語の展開はホラー映画と言うよりも普通の文芸映画として作られている。そのストーリーテリングの巧みさが、この種を明かせば「雨月物語」でもある単純な物語に古典的な文芸映画の味わいを漂わせる。惜しむらくは、監督のルイス・ギルバートの資質的な問題からくる限界というものを払拭しきれないが、それでも近年のホラー映画の中では極めて珍しい古典派として一応の成功をおさめているのは確かだ。

 屋敷の娘を演じるケイト・ベッキンセールの肉感的な唇の朱が卑猥ですばらしい。また主演のエイダン・クインが、如何にも取り憑かれた者を演じるにふさわしい眼窩の窪みを備えて、イギリス人俳優らしい陰鬱な感性を具現している。

 屋敷の因縁、妹の亡霊、その全ての謎が解き明かされるとき、思いもしなかった感動的な場面が現れる。3年前泣かされたこの場面は、今観ても色あせてはいなかった。

 ホラー映画好きに限らず、普通の人々にも薦められる忘れられた佳作。多分、レンタルビデオ店にはまだ置いてあるはず。是非、一見を。

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