CURSE OF THE DEMON(邦題『悪魔の呪い』)


CURSE OF THE DEMON
(NIGHT OF THE DEMON :UK)
1957/スタンダードサイズ(トリミング版)
(99/2/20 輸入V)

 謎の怪死を遂げた友人の死因を探る精神科医ダナ・アンドリュース)に友人の姪(ペギー・カミンズ)が悪魔崇拝者の影が潜んでいることを主張するが、神秘主義を嫌悪する彼は信用しようとしない。しかし、調査を続けるうち悪魔の呪いの実在を感じ始め、遂に悪魔の呪いが自分自身にも向けられていることを知る。

 巨大な悪魔(あるいはその使い魔?)がそのものズバリの姿で登場する特殊撮影とそのデザイン及び造形の秀逸さで怪奇映画史に名を残す作品だが、ジャック・ターナーがイギリスに招かれて撮影したオリジナル版では、悪魔は登場しないらしい。アメリカ公開版はプロデューサーが勝手に撮影した悪魔の特撮シーンを継ぎ接ぎ、既存のカットに合成しなおして再編集を加えたもので、ヴァル・リュートンと組んだRKO作品の恐怖を暗示する演出を再現しようとしたジャック・ターナーの方針とは相容れず、脚本家ともども抗議したらしいが、所詮はプロデューサーの権力にかなうものではなかったらしく、現在アメリカで発売されているビデオもアメリカ公開版のプリントをスタンダードにトリミングしたものとなっている。

 しかも、よくあることだがアメリカ公開版は音声や音楽も差し替えられている痕跡があり、オリジナル版の音声トラックからセリフだけを抜き出し、より大仰な効果音とオーバーな劇伴を加えてリミックスしているらしい。おかげで、このビデオではバックは無音なのにセリフが聞こえるシーンだけ背景の物音が聞こえるという、昔の同時録音方式の映画の音声にありがちな現象がほとんど全てのシーンに見られ、聞き苦しいこと夥しい。おそらく、劇伴にしろ効果音にしろオリジナル版ではもっと控えめだったはずだ。

 という大幅な改悪がなされてはいるものの、物語の展開自体にはあまり手が加わっていないものと思われ、実際悪魔崇拝者の恐怖を描いた映画としては「ローズマリーの赤ちゃん」と並ぶ佳作といっても過言ではないだろう。

 まず冒頭に描かれる心理学者の惨死に早々とまるで怪獣そのものの巨大な悪魔が堂々と姿を現すのは明らかにジャック・ターナーの演出プランをぶち壊しにしているが、その後に悪魔崇拝者のリーダーカーズウェルとの接触や、呪いの実在を追跡するプロセス、悪魔の呪いを受けて昏睡状態の農夫の心理実験を経て邪悪な呪法の詳細を突き止めてゆきつつ、超現実的な存在の気配が濃厚に立ちこめてくるサスペンスには論理的に構築された脚本の功績が大きく、確かに全盛期のジャック・ターナーの作風が見事に復活している。

 で、ラストにはますます怪獣化した悪魔が姿を現して犠牲者を引き裂くのだが、モノクロのぬいぐるみ特撮がまるで「悪魔くん」そっくりでほのぼのと愉しい。確かに、造形的にも悪くないのだ。しかし、機関車が通り過ぎた後に、姿を持たぬ何者かによってズタズタに引き裂かれた死体が発見されることで悪魔の存在を仄めかしていたはずのオリジナル版の渋い演出のほうが映画的には数倍高等であろうことは想像するまでもないだろう。

 しかし、RKO時代の隠喩に満ちた演出技法を再現しようとしているのは確かにしても、各場面には露骨なショッカー狙いのカットや音響効果が横溢しており、モノクロ映画ながらその単純な刺激の強度においては近年のホラー映画にも引けをとらない。そうした戦略はちょうど山本迪夫の血を吸うシリーズにも共通している。特に、主人公が深夜のカーズウェル屋敷に侵入するシーンの階段を利用した奥行きの深いパンフォーカスのカットの鮮烈さや、屋敷のセットの質感の豊かさには惚れ惚れする。どう見ても思いっきりのB級映画だが、モノクロのキャメラワークも素晴らしいのだ。リュートンタッチのようにコントラストは強くなく、むしろ精細な画調が美しい。このビデオ、音質はともかく、画質はほとんど文句なしに美麗なのだ。

 なかでも、遠近法を利用した切り返しのカッティングでアーチ状の規則的な意匠の連続を無限空間のように演出しているホテルの廊下のシーンが秀逸で、まるで「リング」の呪いのビデオに響いていた滑車の軋むような効果音を思わせるキュルキュルキュルキュルという音響効果が高まってゆくにつれこの世ならざるものの気配が増幅してゆく演出には唸らされる。この後、主人公がカーズウェルの屋敷を取り巻く森の中で奇怪な煙の塊に襲われることになるのだが、合成技術等の特殊撮影技術を駆使したこの見せ場よりも、カッティングと音響効果のみで見えざるものの気配を漲らせたこのシーンのほうが数等優れており、確かにこうした部分にはジャック・ターナーの特異な才能が息づいている。

 ラスト近くに置かれたカーズウェルとも繋がりのある農夫を被験者とした心理実験のシーンにしても着実なサスペンスと一転して惨劇に雪崩れ込む劇的な転調が見事で、おそらく音声のリミックスによって劇版が差し替えられている可能性もあるシーンなのだが、それでも見事なケレン味を味わわせてくれる。

 オリジナルのサスペンス映画が怪獣スペクタクル映画に変じてしまったアメリカ公開版だが、なんとかしてオリジナルのイギリス公開版と見比べてみたいものだ。イメージエンターテイメント社のLDあたりならオリジナル版とアメリカ公開版のカップリングなんて気の効いた商品を出してくれそうな気もするのだが。

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