『死国』

基本情報

死国
1999/ビスタサイズ
(99/1/23 高槻セントラル)
原作・坂東真砂子
脚本・万田邦実、仙頭武則
撮影・篠田 昇 照明・中村裕
美術・種田陽平 音楽・門倉 聡
監督・長崎俊一

感想(旧HPより転載)

 原作の最大のギミックであるお遍路の「逆打ち」を予告編やCFでばらしてしまったのは最大の失敗であったと思う。映画は物語の2/3を要してその謎解きを行うのだから事前に仕掛けを明かされてしまうと観客のほうが白けてしまう。

 しかし、ホラー映画としては、少なくとも2/3の時点まではかなり上出来で、故郷の村に帰ってきた主人公夏川結衣の周りで起こり始める怪奇な出来事を呈示してゆく前半部分のサスペンスの作劇には明らかに「リング」からの直接的な影響が顕著で、黄泉の国から甦ろうとする少女栗山千明の幽霊の現れ方やそれに先立つ木造旧家の闇に充満するただならぬ気配に登場人物達の背筋が刺激されるシーンなどの演出には高橋&中田ラインの開発した手法を忠実になぞっている。

 少女の幽霊の扮装など「リング」の貞子と全く同じというのもいかがかとは思うが、中には先達を凌ぐほどの「恐怖が紛れ込む」瞬間が用意されており、おそらく高橋&中田コンビのスタイルを生むに至った古今のホラー映画や、特に心霊実話テイストの演出技法に関して律儀に学習した成果が見て取れる。「悪魔の棲む家3」のリチャード・フライシャーからの引用かと思しきシーンもあり、人物の退場した空舞台を映し出したカット尻の間合いを生かして気配を演出する高等テクニックも用いられている。ただし、この世ならざるものの見せ方については、主にカットの長さが不適切な部分があり、編集作業について課題を残している。

 ただし、母親根岸季衣が少女を甦らせてからの顛末はこうしたメロドラマ仕立てのホラー映画にありがちな登場人物の出し入れの段取りについて構成の拙さが露呈し、クライマックスなどは完全に失敗している。少女蘇生までの丹念な描写が思いの外堂に入っていただけにその落差には失望させられる。

 しかし、篠田昇キャメラワークは絶妙で、後半の怪異があからさまに続発する部分はまるで実相寺昭雄の映画のように虹やスポットライトを多用した人工的な照明設計になってしまうのが残念なのだが、前半の四国の山村の風景を生かしたロケーション撮影での、コントラストの低い柔らかな光や、穏やかな色彩、手持ちキャメラの鼓動に似た緩やかな揺れが日本映画離れした独創的な映像設計を生んでいる。まあ、岩井俊二と組むときとほとんど同じだから、今や篠田昇スタイルとして確立してしまったのだろうが、相米慎二の傑作「ラブホテル」と比べても進展著しい。クライマックスまでナチュラルなライティングで押し通した方が良かったとは思うのだが。

 それからなんといっても感動的なのが、逆打ちに対抗するため四国に結界を再構築しようとする修験者に扮する佐藤允の登場で、「リング」リング2」の怪優沼田曜一に対抗するには絶好のキャスティングであった。東宝印の映画で佐藤允が活躍するだけで個人的には本望である。

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