怪談
2007 ヴィスタサイズ 119分
ユナイテッドシネマ大津(SC7)
原作■三遊亭円朝 脚本■奥寺佐渡子
撮影■林 淳一郎 照明■中村裕樹
美術監督■種田陽平 音楽■川井憲次
視覚効果■橋本満明 合成技術■光学太郎
監督■中田秀夫
江戸の深川で出会った新吉(尾上菊之助)と豊志賀(黒木瞳)は、羽生村で起こった惨劇に端を発する因縁を背負った者どうしだった。そんなことも知らぬ二人は忽ち懇ろになるが、嫉妬深い豊志賀は悪病に取り付けれると、新吉の心変わりを疑いながら、今後七人まで女房を取り殺すと書き残して憤死する。羽生村に逃れた新吉は狂乱して、一緒に逃げ延びたお久(井上真央)をかさねが淵に沈め、失神したところをお累(麻生久美子)に救われるが・・・
中田秀夫が円朝の正統派怪談「累ヶ淵」の物語に挑んだ意欲作。中川信夫が新東宝で傑作を撮り、その後大映で安田公義が2度も映画化したおなじみの物語だが、今回は2時間の大作という恵まれた条件で、これまでなかなか描かれなかった、豊志賀の死後の物語に大幅に踏み込んだ点が新機軸である。また、新吉という典型的な意味での二枚目の存在を中心に据えて、江戸の街で因縁を背負って美しく生まれ着いてしまった男の悲劇に焦点を合わせている点も異色だろう。もちろん、数々の四谷怪談の映画化にもその意図は働いていたはずだが、ここまで真正面から描きこんだ映画は少ないだろう。
前半の豊志賀の死までの顛末は、これまでの傑作映画に比べるとどうしても弱さを感じるが、豊志賀の因縁が怪しく糸を引く後半の展開は、じっとりと悪縁の恐さを引き出して成功している。ラストは、中川信夫的な昇華のイメージに似ているが、数々の幽霊画のイメージに、サロメのモチーフを混ぜ込んだ秀逸な場面である。基本的には恋愛映画であって、往年の怪談映画に比べると残酷さ(人間の残酷さ、社会機構の残酷さ、性の残酷さ等等)が不足しているのだが、特に後半の赤子に絡んだ怪異の描写には突き抜けたものを感じさせる。VFXの威力もあって、豊志賀の怨念が無心な赤子の中に澱のように宿っているという難しい映像表現を、よく具体的に映像化している。このあたりの挑戦はさすがにJホラーの旗手たる中田秀夫の面目躍如だ。
大映映画の怪談映画では、映像から饐えた臭いが感じられるような、生活観と世界観が持ち味だったが、本作では種田陽平のデザインによる時代劇世界を、あくまで美的に涼やかに切り取ることが志向されており、林淳一郎の撮影によるルックは、色調も異様なほど淡彩である。中村裕樹の照明もリアリティではなく、かなり人工的で華麗な設計がなされており、場面によってはその派手は光線は一体どこから来ているのか?という不自然さも感じさせるのだが、映像設計の基本線が端麗な涼しさにあるので、それはそんなものとして受け入れるべきなのだろう。
なぜか村上ショージが小悪党の役で登場するのだが、意外とはまり役。関西弁のアクセントが抜けないが、かさねヶ淵に吸い込まれる場面の演技など、実に見事。こうした怪談映画に小悪党は欠かせない。瀬戸朝香の登場で後半がグッと引き締まった。