「タラワ」もあるでよ!家族に捨てられた軍曹の孤独な戦い『硫黄島の砂』

基本情報

Sands of Iwo Jima ★★★
1949 スタンダードサイズ 100分 @DVD

感想

■タイトルは硫黄島しか出てこないけど、実際は1943年11月の「タラワの戦い」と1945年2月の「硫黄島の戦い」が描かれる。文字通り鬼軍曹であるストライカー軍曹(ジョン・ウェイン)が率いる海兵隊の小隊がニュージーランドの基地からタラワへ、ハワイ基地から硫黄島へと両作戦で戦い抜き、反目していた新任のピーター(ジョン・エイガー)が成長して軍曹の衣鉢を継ぐまでを描く。

■という王道の戦争映画で、「タラワの戦い」はあまり印象がないけど、相当な激戦だったらしく、日本よりも米国側でインパクトが大きかったらしい。それでも戦死者は日本側の1/4くらいだったらしいけど。

■お話は、本当に典型的、類型的なもので、先日観た『太平洋航空作戦』とフォーマットは変わらない。当時の記録フィルムを積極的に使う姿勢も同様。タラワの戦いはまだスケールが控えめだけど、硫黄島の戦いは相当に風呂敷を広げたスペクタクルな撮影で、口があんぐり開いてしまう。

ジョン・ウェイン演じるストライカー軍曹の人間像がちょっとユニークで、故郷に妻と10歳の息子がいるけど、いまや手紙も来なくなった孤独な男。すぐに鉄拳制裁するから、次にやったら軍法会議だと上司に言われて降格を食らうような男。まあ、日本軍なら隊内の暴力は当たり前の日常風景だけど、米国ではちゃんと暴力は軍律違反です!

■ハワイ基地でなんとなく訳あり風の色っぽい婦人に誘われ、下心に誘われてその家にしけこんだけど、実は旦那が戦死した子持ちで、という展開がユニーク。でも、ここで落胆するんじゃなくて、逆に救われた気がして、戦地に向かう。故郷の妻子からは便りがなく、すでに見捨てられたかもしれないけど、故郷の妻子に再会したような気が、ちょっとしちゃったよ、ありがとう。というしんみりする場面。ありきたりになりがちなマッチョなキャラクターに、微妙な人間性のニュアンスを加味する脚本の工夫だ。酔いつぶれるほど酒飲む性癖も、家族に見捨てられたという思いから荒れていたらしい。最終的には、あんなことになっちゃうし、実はかなり救われない寂しい弱い男だったのだ。まあ、そこが明らかに映画としての工夫だし、見どころですね。ジョン・ウェインなのにね。

海兵隊はとりあえず命令で乗船させられるけど、目的地がどこでどんな作戦なのか、直前まで告げられない。東宝の戦記映画などでは司令官レベルが描かれて、マスゲーム的な戦場が描かれるけど、ハリウッドの戦争映画て意外と、視点がアリの目なんだね。というか、それが普通か。東宝の特撮戦記映画が特別なのだ。あとは、笠原和夫の『あゝ決戦航空隊』とか『二百三高地』とか『大日本帝國』を観てるから、上から下まで満遍なく戦争を包括的に描くのが当たり前と、なんとなく誤解してしまうのだけど。あれは、超大作だけに可能な曲芸と考えるべきなのだね。


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