硫黄島からの手紙 ★★★☆

LETTERS FROM IWO JIMA
2006 スコープサイズ 141分
TOHOシネマズ二条(SC10)


 戦況が悪化の一途をたどる昭和19年6月、硫黄島に降り立った栗林中将は、硫黄島を死守するため島を地下要塞とすることを決意する。昭和20年2月、アメリカ軍が上陸を開始し、その圧倒的な兵力の前に5日で終わるだろうといわれた硫黄島の戦いは、36日間にも及ぶ歴史的な消耗戦となった・・・

 「父親たちの星条旗」に続く前代未聞の硫黄島2部作が完結した。一言で言ってしまえば、映画史上、前代未聞の偉業であり、戦争の残酷さや無意味さをイヤというほど観客に叩き込むということに成功し、しかも映画としての完成度も極めて高いといえる。敢えて難点を挙げれば、それゆえ観ていて辛い映画であるということだ。

  本作は、知米派の栗林中将の合理的作戦指揮を描く部分と、二宮和也の一兵卒が島内の最前線を転々としながら戦争の惨状を体験する部分が大きな流れとして描かれ、特に二宮和也の描き方を、現在の若者の視点に近く設定して、若い観客が戦争の実際の姿を疑似体験できるように配慮されている。その企み自体も非常に立派だと思うし、演技的にも演出としてもやはりレベルが高い。二宮和也は既に「青の炎」で演技者としての天才ぶりを発揮しており、今回はそれに比べると役不足という感があるが、妻子あるパン職人という主人公のまるで少年のような視点を通して玉砕戦の惨状をストレートに描いたエピソードは、正視しがたい部分も含めて相当リアルな描写が徹底されている。さらに、そうした過酷な史実に基づいた映画でありながら、ラストに救いを残した作劇にはイーストウッドの余裕がうかがえる。

 「ここは、まだ日本なのか?」と名台詞を残した渡辺謙が圧倒的な貫禄を示し、一部演技がオーバーになって、ちょっと丹波哲郎になっているところもあったが、それはそれで素直に嬉しかったよ。またバロン西を演じた伊原剛史は役得で、これまでの役者人生で最良の役をもらえたのではないか。一方、中村獅童はそれと対照的に不様な生き様を晒す軍人を演じており、よく引き受けたと褒めてあげてもいいだろう。それぞれの男たちの生き方を、ちゃんとアクション映画のヒーローとして成立させながら、そうした個々の人間達の命と才能と可能性をひたすら消耗させる戦争行為の無意味さを際立たせるのだから、ただ事ではない。おそらく黒澤明が幻の「虎、虎、虎」で狙ったこともそういうことだったのだろうが、イーストウッドが遂に実現してしまったわけだ。

 「父親たちの星条旗」に比べると明らかに低予算な映画(といっても日本映画の100倍くらいはかかっているだろうが)で、VFXの使用も少なめで、キャストも日本人や日系人ばかりなので、ある意味では「父親たちの星条旗」の余禄として成立した映画ともいえるが、この2本は同時に見られることによって、世界の映画史上に不滅の金字塔となったのだ。しかし、イーストウッドアメリカの知性を代表することになろうとは、誰に想像できただろうか。

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