■三冊の秘密ノートをめぐるオチは秀逸だし、透明化実験をめぐる疑似科学的なロジックの部分はSFとしてさすがに読ませる。映画版では完全にオミットした部分だけど。でも逆に、映画で印象的だったあの場面やあの展開は映画オリジナルだったのかと感慨深い。
■みえないけど存在する意思。みえない存在がもたらす物理的変化と疑心暗鬼と心理的恐怖。それはこの世界を恐怖で支配することを可能とする。姿はみえないけど、現実に存在する。あるいは存在するとみなが思うこと。それが恐怖支配の源泉だ。でも考えようによっては、それって神のこと?あるいは悪魔なのか?小説はなんとなく仄めかすだけで、それ以上は追求しないけど、もったいないなあ。
■なにしろ小説は、恐怖支配の理念と妄想を高らかに謳い上げたとたんに透明人間は死んでしまうけど、SF小説としては、本来はその恐怖支配の始まりと終わりの顛末をこそ描くべきだったかもしれない。物足りないといえば、そこが一番物足りない。