こんなところに福島正実の「マタンゴ」が!『SFショートストーリー傑作セレクション 怪獣篇 群猫/マタンゴ』

■『群猫』『仕事ください』『弱点』『マタンゴ』『黴』の5本立ての短編集。こんなアンソロジーが出ていたとは知らなかった。

■『群猫』は筒井康隆の短編で、地下の暗黒世界で、テレパシーを獲得した白い猫たちと白い鰐が血みどろで戦う異色作。ラストなんてまるで『鯨神』だけど、「怪獣」ではないような…眉村卓の『仕事ください』も「怪獣」ですか、コレ?

小松左京の『黴』は有名な短編で、SF怪獣小説といえばこれでしょうという定番。生命体、工場、都市。ミクロとマクロ。「見方によっては---人間だって。。。」

■実際のところ、福島正実の『マタンゴ』が読みたくて借りたのだけど、原案のうち星新一は実質的にはほぼノータッチだったそうです。映画の封切りと合わせて公開された原案小説(?)は、ホジスンの『闇の声』の翻案だけど、映画との差異を見ていくと、なかなか興味深い。劇中の男女関係(性的関係)が映画よりもっと露骨に描かれているし、マタンゴを食べるという選択がなくても、体中に勝手に生えてくる(ああ、気持ち悪い)。難破船の日記は出てこないし、放射能の影響云々も言及がない。

■ラストの主人公の述懐もかなり異なる。『モロー博士の島』からの引用(?)と思しき要素も、福島正実経由かと思ったのだが、小説にはその部分はないから、映画のオリジナルなのだろう。脚本の木村武(馬渕薫)がわざわざウェルズから引用するとも考えにくいので、完全にオリジナルな台詞で、たまたま似ていたということかも。

■物語の基調が白い霧に閉じ込められているのは原作由来だけど、映画ではロケの都合などもあり、白い霧のモチーフは後退している。モノクロ撮影だったら、霧のモチーフが生きたことだろう。そうして幻想的な内省的なムードに対して、映画版は人間社会の爛熟と退廃を色濃く打ち出しているのがユニークで、そうした人間嫌いな厭世的なムードは、やはり木村武(馬渕薫)の持ち味ということだろうか。こんなに退廃すれば、あとは滅び去るしかない、いやむしろそうあってほしい、というような昏い情念と怨嗟は、福島正実の原作小説には感じられない。

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