大奥
2006 スコープサイズ 126分
TOHOシネマズ二条(SC10)
脚本■浅野妙子
撮影■江原祥二、浜名 彰 照明■沢田敏夫
美術■吉田 孝 音楽■石田勝範
監督■林 徹
七代将軍の御世、生母として権勢を手にした月光院(井川遥)を追い落とすことを策謀した天英院(高島礼子)は月光院と側用人間部詮房(及川光博)の密通を大奥総取締の絵島(仲間由紀恵)の口から証言させるため、歌舞伎役者生島(西島秀俊)を絵島に接近させ、色仕掛けで彼女を陥れようとするが、絵島と生島の間には真実の恋が芽生えはじめ、謀略は思わぬ方向に向かう・・・
テレビシリーズの出演者をゲストとして大挙動員したせいで、冒頭部分に不必要な説明が延々と続き、必要性の乏しい脇役があまり見せ場もないままに右往左往しているのは、脚本家の腕の拙さによるもので、演出もバカ正直にそれに付き合っているのは困ったものだが、後半に至り、やっと物語の骨格が明確になり、メロドラマとしての本性を発揮し始める。
無駄な部分は多々あるが、月光院と間部の恋に絵島が触発されるという構成が出色の工夫で、後半の刹那に燃え上がる一夜限りの恋の顛末が生きている。ラストの月光院と絵島の別れの場面も月並みではあるが、時代劇メロドラマとしては、見事な締めくくりと言って差し支えない。山村座の炎上*1を契機として、絵島が大奥という桎梏を離れて生島と命をかけた恋を燃やすという通俗な展開も、これでこそ東映映画という避けては通れない作劇のツボであろう。演出と演技について疑問も残るが、見せるべきものをきちんと見せることについては間違っていない。
主演の仲間由紀恵の演技は相変わらずサイボーグ的だし、西島秀俊は黒沢清の映画などでは極めてユニークな個性を発揮するが、正統派時代劇は荷が重すぎたようだ。もっと頽廃を存在感として表現できる役者であるべきで、素直に歌舞伎界の若手などを据えるべきところだろう。間部と引き離されて狂気に接近する月光院の女としての純情さとだらしなさを井川遥が存在感そのものとして、演技の技術を超えて表現していることと対照的といえる。この月光院という役どころが、実はこの映画の肝なのである。
製作は東映京都撮影所だが、撮影は東映のキャメラマンではなく、松竹映画系の江原祥二と浜名彰。基本的に東映的な明るい画調で統一されているが、ラスト近くの捕らえられた絵島と天英院が対峙する井戸を中心とした坪庭風の小さな空間を背景に、セット内に翳り行く太陽を捉えたシーンなど、撮影、照明、美術の意気込みが凝縮された情感豊かな構築で、時代劇のメッカの意地を見せてくれた。欲を言えば、森田富士郎のレベルを期待したいところだが、突貫撮影ではそこまで求めるのは気の毒か。