感想(旧HPより転載)
ある実業団のマラソンランナーが、マラソン大会の優勝を期待されながらも身体の故障に泣かされ、焦ってトレーニングを再開してはまた足を痛めてしまう悪循環に悩みながらも徐々にペースを取り戻して真冬の大会に向けて調整してゆく姿をスポンサーでもあるフジフィルムの製品を使用して記録した黒木和雄の堂々たる代表作で、「白い巨塔」等数々の大映映画でのどす黒い劇伴で知られる池野成のまるでホラー映画のような陰鬱なテーマ曲に彩られた問題作。
上映前の黒木和雄監督の挨拶によれば、制作会社である東京シネマの社長と演出方針を巡って対立し(監督はナレーション無しで物語りたかったらしい)、半永久的にスタッフをクレジットしないという条件で完成された作品。現在前社長の跡を継いでいる二代目社長が快くプリントを提供してくれたものらしい。
クライマックスのマラソン大会で見事なゴールを飾った主人公(?)がゴール後も一向に走るのをやめようとせずマスコミ陣を振り切って、観客達をも無視して道路を疾走し、付近の公園に踏み込んでやっとペースを落とし始める、その執拗な走りへの執着を追いつめたキャメラワークが圧倒的に凄い。トラックでの主人公(?)の練習風景を飽くことなく長廻しで捉えた息をもつかせないシーンも凄まじく、このマラソンランナーの走ることへの執念の凄まじさを余すことなく映画に翻案している。
そんなマラソンランナーの「自分は何のために走っているんだろうって、考えることがあるんですよ」という言葉で締めくくられるこの映画は最後にさらなるゴールを目指して練習を始める彼の姿を記録して、1964年、昭和39年の日本の姿を告発するとともに、観るものに息継ぎを忘れさせ酸素欠乏に追い込むヴァーチャルスポーツ映画でもある傑作。