★要注意ネタバレあり★政府もGHQもあてにならないから、民間人の創意工夫でゴジラを駆除する!『ゴジラ-1.0』(感想/レビュー)

基本情報

ゴジラ-1.0 ★★★
2023 スコープサイズ 125分 @イオンシネマ京都桂川(SC9)
脚本:山崎貴 撮影:柴崎幸三 照明:上田なりゆき 美術:上條安里 音楽:佐藤直紀伊福部昭 VFX山崎貴 VFXディレクター:渋谷紀世子 監督:山崎貴

感想

【2023/11/7最終更新】
■前作『シン・ゴジラ』がシリアスで大風呂敷を広げた政治的ドラマで、公的部門の人間(しかもエリート)しか登場しなかったことの差別化か、本作はきわめて小さなお話で、基本的に庶民の家庭劇になっている。そこは山崎貴のお得意の土俵に持ち込んだとも言えるだろう。演出的にも、VFX的にもこれまでの映画の経験や蓄積を最大限発揮できるような舞台設定になっている。大規模な見せ場も絞り込んで、予算規模的にもこぢんまりとして、いかにも山崎貴イズムだ。

■特攻を忌避した男が、終戦後、東京に上陸したゴジラから、戦後得た疑似家族を守るために、自分自身の戦争を終わらせるためにもう一度戦うことを決意するというお話で、冒頭の大戸島から意表をつかれるが、そこで登場するゴジラはまるでジュラシック・パークなので、ちょっと興ざめする。

終戦直後の日本にゴジラが現れるというので、日本の黒い霧とか、戦後史の闇とか、現代史の裏側が絡むに違いない、キャノン機関は絶対出るよねと期待したが、そこは完全にスルー。もちろんGHQは登場するし、マッカーサーも登場するけど、本作ではそうした面白そうな戦後史の機微な部分は扱いませんよと宣言するために出るようなもの。ソ連を刺激したくないから米軍は手を出せないので、日本人が自分でなんとかしてね、と宣言する。そのかわり、戦後処理が済んでいない戦時中の艦船は、いくから自由に使っていいからね、と。

■そもそも何を契機としてゴジラが出現するのかと思いきや、1946年のクロスロード作戦に起源を求めている。大戸島でゴジラと呼ばれた巨大生物は太平洋を泳ぎ回っていたところ、ビキニ環礁被爆したらしい。そして、強力な再生能力を身につけた。。。

■主人公が復員後に疑似家族を形成するところや、機雷除去作業に従事するあたりの工夫はなかなか目の付け所がいいところで、それらの数人規模の小さなコミュニティによってお話は展開する。なんといっても、ゴジラの駆逐を決意するのも日本政府ではなく、軍隊出身者を中心とする民間団体というところは、最もユニークなところ。とことん、『シン・ゴジラ』の逆ベクトルを狙うのだ。そもそも、民間団体って、どこが艦船を動かす費用を出しているのかとか、児玉誉士夫じゃないの?とかM資金が?とか、黒い(おとなの)妄想が広がるけど、そこも完全にスルーする。橋爪功カメオ出演するので、実は彼が大物フィクサーかと思ったけど、そうでもない。(それじゃ『沈黙の艦隊』だね!)

■実際のところ、神木隆之介浜辺美波のシーンは全般に調子が低くて感心しないし、もっと演出的に、編集テンポとしても濃縮できるだろうし、安藤サクラ演じるご近所のおばさんの人物造形にも無理がある。やりたいことはなんとなくわかるけど、そのセリフじゃないし、演技のテンションも違う。東京大空襲で精神的に病んだ人かとおもいきや、そうでもなさそうだし。

■肝心のゴジラも個人的にはデザインもCG造形も感心しないし、相変わらずアクションがリアルに感じられない。まあ、これはハリウッド版のCGゴジラも同様に感じるけどね。意外に良かったのが文字通りステロタイプな、漫画に書いたような「博士」役の吉岡秀隆で、あの髪型はいくらなんでも冗談だろと思ったけど、重要な脇役をさすがに見事に演じきるから、さすがだし、儲け役だった。クライマックスの対ゴジラ作戦:わだつみ作戦を立案するし、艦上で現場指揮は執るし、大活躍でカッコいい。

ゴジラ本体に魅力は感じないけど、海上シーンの艦船群のVFXは非常に見事で、白組の蓄積したノウハウが遺憾なく発揮されているし、一番燃えるポイント。毎回期待はしている音楽面だけは、『シン・ゴジラ』方式を踏襲していて、大きな見せ場は完全に伊福部昭頼み。個人的には、ここが最も残念な部分で、小六禮次郎大島ミチルが新しいゴジラ映画の音楽を開拓していたのに、最近は伊福部昭のオリジナル楽曲ありきに完全に後退してしまった。でも実際、わだつみ作戦の場面は、最大音響で伊福部節が鳴り響くので、劇的効果としては実に良いんだけどね。悔しいけど、それは認める。

■本作の弱点は、肝心の家庭劇の部分が弛緩しているのと、サスペンス要素が少ないところだろう。わだつみ作戦が立ち上がるとサスペンスが起動するんだけど、もっと全般に仕掛けるべきだろう。その点、ギャレス・エドワーズの『GODZILLA』の前半はやはり傑作だった。家庭劇と政府の陰謀と謎解きの絡み合いが、見事なサスペンスを生んでいた。でも、政府も米軍もあてにならないから、民間人の創意工夫でゴジラを駆除する!というテーマ設定はなかなか批評精神に富んでいるから、山崎貴、いい仕事したよね。

補足1

山崎貴の映画は、クレジットされるVFXスタッフが異常に少ないのが特徴で、白組の社員たちの名前がクレジットされるけど、ハリウッド映画だと100人とか200人のクレジットが延々と流れるところ、2~30人しか表記されない。これについては、ハリウッドの映画人からどんなマジック使ってるのだ?と訝しがられるほどだけど、山崎貴は以下のように言っている。

あとスタジオのスタイルとして「ポスプロ作業は面積」と考えているので、「たくさんの人数で短期間やる」と「少ない人数で長期間やる」では、かかるコストは変わらないんですね。でもスタッフの習熟度とか育成を考えると、後者の方が良い結果になると思います。当然スケジュールの問題もあるので、そこはクライアントにわがままを言ってその方針を呑んでもらっていることになりますが。
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■つまり、少人数でも長時間かければハリウッドクラスのクオリティが実現できるということ。それに山崎貴の映画は、VFXの大きな見せ場をかなり戦略的に絞り込んで構成しているのも特徴で、それは予算規模に応じて少人数の職人で映像クオリティを上げるために必須な作戦。本作も手がかかる見せ場は少なくて、非常にコンパクトに作られていることがわかる。それに、キャストも意外なほど小粒で、金のかかる役者は使っていない。そこにも、山崎貴の巧みな戦略がある。

補足2

■この映画のなかで直接描かれるドラマは、実は山崎貴の構想の氷山の一角であって、真の想いは、水面下に隠されている。という視点から、この映画を裏目読みしたのが、以下の記事です。

■まあ、映画ってもともとそんなものなので、敢えて直接描かないことで逆に際立つテーマもある。当然ながら山崎貴は、冗長なお涙頂戴映画ばかり撮りたくて撮っているわけではないのです。
maricozy.hatenablog.jp


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参考

maricozy.hatenablog.jp

maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
これはなかなかの秀作で、山崎貴の代表作だと思います。CGによる艦船描写は見事な完成度。
maricozy.hatenablog.jp
山崎ゴジラはここですでに登場しています。ゴジラの造形自体はあまり変わっていないような。。。
maricozy.hatenablog.jp
ここでも船舶絡みのVFXが秀逸でした。
maricozy.hatenablog.jp

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