BALLAD 名もなき恋のうた ★★☆

BALLAD 名もなき恋のうた
2009 スコープサイズ 132分
TOHOシネマズ二条(SC7)
原案■原恵一 脚本■山崎貴 脚本協力■佐藤嗣麻子水島努
撮影■柴崎幸三 照明■水野研一
美術■上條安里 音楽■佐藤直紀
VFXプロダクション■白組 VFXディレクター■渋谷紀世子
VFX&監督■山崎貴

■傑作「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」のかなり忠実な実写リメイク。さすがに山崎組常連スタッフの名人上手たちの技術力は安定感抜群だが、同時期公開の「火天の城」のほうが、企画も、技術的にも野心的だ。原作アニメをより甘口に戦国ラブロマンスとして作り直すという商売上の意図は分からんでもないが、役者陣にとにかく時代劇らしさが感じられないのが一番の欠点だ。

■草なぎ君は悪いやつではないが、適役とは言えないし、なにより困るのは新垣結衣がまったくお姫様に見えないことだ。これは配役のミスでもあろうし、演技指導の不足でもあろう。立ち居振る舞いだけでお姫様と感じさせなければ、お話が説得力を持たない。さらに、草なぎ君との身分の差という重要な要素も非常に希薄で、悲恋としての構造が実感できない。大倉井高虎を演じるのが、近年だめな日本映画の顔となってしまった大沢たかおで、ここでもやっぱりだめだった。山崎貴ステディカムを多用した長廻しを多用して、戦闘シーンや決闘シーンまで長廻しを基調とするのだが、結果的にはアクションの衝撃を希薄化してしまっている。

■気になったので原作アニメを見直したのだが、キャラクターの鮮烈さがぜんぜん違う。又兵衛はかろうじて侍大将に見えるし、姫は小林愛の好演もあって、凛とした存在感がはっきりと感じ取れる。戦国合戦の様子も、描いている内容はほとんど一緒なのだが、アクション描写に対する意思の固さが作画からひしひしと伝わってくるところが凄い。VFXによる実写化は、どうしても「レッド・クリフ」などのスペクタクルの二番煎じに見えてしまう。特に違うのはクライマックスの又兵衛と大倉井の決着のあり方で、ギャグとアクションの高度な融合(そしてしんちゃんによる高虎への糾弾)が文句なしに傑作の実感につながっている。それに比べると、実写化はいかにも大味で、テーマの掘り込みが浅い。山崎貴としては、目標とする超大作「鵺」のための時代劇の習作をという心積もりだろうが、ほんとに時代劇を舐めないでくれよ。

■製作はテレビ朝日、ROBOT、東宝ほか、企画、制作はROBOT。


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