ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT ★★★★

THE FAST AND THE FURIOUS: TOKYO DRIFT
2006 スコープサイズ 104分
ユナイテッドシネマ大津(SC7)


 暴走行為で逮捕され、少年院送りを免れない高校生(ルーカス・ブラック)は、元父親を頼って、東京に逃げ延びる。絶対車に触れてはいかんという父の教えも空しく、ドリフトキングと異名をとるチンピラのトオル(ブライアン・ティー)と立体駐車場のレースで負け、その片腕のハン(サン・カン)に負った借金のかたに高利貸しの取り立てを手伝わされることに。だが、トオルの彼女(ナタリー・ケリー)と親しくなったことからトオルに目の敵にされ、さらにハンはトオルシノギを掠めていることが発覚し・・・

 台湾出身のジャスティン・リンが、東京アンダーグラウンドの世界で繰り広げられるドリフトレースの生態に注目したカーアクション映画の傑作。首都高速を大暴走し、渋谷の交差点で大ドリフト大会を繰り広げる、ありえない夜の東京の表現は荒唐無稽な部分を多く含み、それがキッチュな魅力になっているのだが、単なるアメリカ人の誤解から生じたサブカルチャーバカ映画として切り捨てるには惜しい批評性が含まれている。香港で映画化された「頭文字D」よりもアクション映画としての出来栄えは格段に良い。

 基本的に、日本のアンダーグラウンド世界は、アメリカにも存在しない無法の開拓地だという設定になっており、物語の原型は西部劇である。アメリカを逃げ出してきた青年、オーストラリア人の娼婦が日本で産み落とした娘、ヤクザの大ボスである叔父貴の下で修行中の在日(あるいは韓国系日本人)青年、韓国を逃げ出してきた青年等々、日本のアンダーグラウンド世界の主役は日本人ではなく”ガイジン”と称される人間達であるということを鮮烈に描き出し、普通の日本人の姿は渋谷の交差点界隈を蟻のように群れ動く、ルールに縛られて生きる自由を失った人間たちと定義される。そんな日本人たちを渋谷のビルの屋上から見下ろす主人公とハンのシーンは象徴的だ。

 また、ヤクザの大ボスとして登場する千葉真一は、この映画では極めて無国籍な風貌と時代劇がかった芝居でつかみ所が無いキャラクターとなってしまったのは演出及び演技的な誤算だと思うが、この人物が最後のドリフト勝負の後で主人公に投げかける台詞も象徴的だ。日本のアンダーグラウンド世界に迷い込んでしまった主人公に、アメリカでも得られなかった”自由”を保障するのは、警察でも裁判所でも無く、ヤクザの親分なのだ。

 主人公と友情を育むハンを演じるサン・カンもいいが、ソン・ガンホを若くしたようなブライアン・ティーの熱っぽい芝居がアクション映画を盛り立てる。ドリフト走行のアクションシーンに随時挟み込まれる彼の目元のアップショットに漲る殺気がこの映画の生命線となっている。一方で、千葉真一をはじめとする日本のヤクザたちが全くチグハグなメンツなのはいただけない。Vシネマ軍団を揃えれば誰からも文句がつかない完璧な配役ができたはずなのに、ヤクザ映画に対する敬意が足りない。

 東京でもかなりのシーンがロケ撮影されているが、高速暴走や新宿、渋谷あたりのドリフトアクションは、日本ロケ、アメリカでのオープン撮影、CGが大規模にデジタル合成されており、ハンマーヘッド・プロダクション、R&H社、ILM等のVFX工房が多数参加している。しかし、VFXの精度云々よりも、ジャスティン・リンの切れの良いアクション映画の話術と編集に酔わされる。車外に流れる風景がデジタル合成で自然に馴染むようになったことの意義は、この種の映画にとって極めて大きいだろう。主人公とヒロインが峠道を流すシーンの流麗なキャメラワークと編集など実に見事なものだ。

 ラストにはあの大物まで登場してニヤリとさせるサービス満点の映画だが、せっかくの北川景子が単なる主人公の取り巻きにしか過ぎないのは勿体無い。彼女よりも主人公の父親の馴染みの女(娼婦のように見える)を1シーンだけ演じる真木よう子のほうが印象が強い。


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