ラッシュ プライドと栄光 ★★★☆

Rush
2014 スコープサイズ 122分
Tジョイ京都(SC4)

■F1レースで世界チャンピオンを競うニキ・ラウダジェームズ・ハントの二人の対照的なレーサーのライバル関係と友情を描いた、大ベテラン、ロン・ハワードのアッパレな横綱相撲。ロン・ハワードの映画を劇場で観るのも何年ぶりだろう。

■後で知ったが、脚本を書いているのが『クィーン』とか『フロスト×ニクソン』とかのピーター・モーガンなので、退屈なはずがないわけで、二人の個性的なレーサーの人間像を的確にスピーディーに描きこんでいき、ニキ・ラウダの事故による大火傷と奇跡的な復帰をクライマックスにぐいぐいと押し込んでくる。このあたりのハイテンポの押し込みは、さすがにベテラン、ロン・ハワードで、危うげなところが無い。

■20%以上の死亡リスクは取らないと雨のレースを避けようとする彼の合理主義がしっかりと描き込まれていて、そのプロフェッショナリズムは非常にカッコいい。地獄の拷問のような肺吸引の治療を不屈の闘志で乗り切って、レースに復帰しながらも、悪天候を理由にあっさりと棄権するあたりのドラマは本編の白眉。ロン・ハワードの映画で重要なテーマである労働とか勤労に対する倫理観がニキ・ラウダの人間像によく表れている。これもまたロン・ハワードお得意の「働くおじさん映画」なのだ。

■一方、享楽的に短い人生を駆け抜けたジェームズ・ハントも、実際はレース前には緊張のあまり嘔吐を繰り返す小心な男として描かれ、単純なレース狂ではないことを結構念入りに描写する。このあたりにピーター・モーガンの筆の冴えがある。演じるのは『マイティ・ソー』ことクリス・ヘムズワースで、非常に好演。『マイティ・ソー』はコメディ傾向が強かったので、本作は男臭くて単純にカッコいいよ。

■最近のハリウッド映画のなかでは珍しい正攻法のドラマと作劇で、安心して観ていられる良作。映画館で観られて、ホントに良かった。たとえば、亡くなったトニー・スコットなんかが撮っても似たスタイルにはなったと思うけど、人間臭さはここまで出せなかったと思うよ。そこは脚本と監督の人選が良かったんだね。


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