アシュラ
2012 ヴィスタサイズ 75分
DVD
脚本■高橋郁子
音楽■上田益、池頼広、住友紀人 CG監督■森田信廣
監督■さとうけいいち
■中世の京都で人肉を食って生き延びた少年アシュラは、旅の法師との出会い、最期まで人肉食を拒否して餓死していった娘との別れを通じて仏道に目ざめてゆくという、宗教説話。いや、ほんとはそんな話ではないと思うのだが、人肉食という残酷な寓話を穏便に処理するためには仏教説話という体裁が必要だったのだろう。それにしても、『手塚治虫のブッダ』といい、最近の東映アニメーションは何故仏教にこれほど傾倒するのだろうか。
■正直、何故今『アシュラ』なのかという疑問には誰も答えられないだろうが、映画そのものは意外にも上出来。どうもセルアニメではなく、CGアニメなのだが、モーションキャプチャーの利用や、いかにもCGキャラ丸出しの若狭など、確かにそれらしい部分も散見されるが、主人公のアシュラを中心として、不自然なCG感が感じられず、通常のセルアニメでもない、秀逸な美的センスを発揮している。キャラクターのアクションにはセルアニメのエッセンスが生かされていると思うが、キャラクターの汚しの凄さはセルアニメを超えた質感と説得力があり、アニメ美術の観点からすれば、相当レベルが高い。正直、東映アニメからこうした先鋭的なルックが誕生するとは意外だった。
■お話は人食いの野獣であったアシュラが人間性に目ざめてゆく過程をいかにも東映的な残酷劇として描くところにアウトロー活劇の本場らしくさすがの強みを発揮して、非常に面白い。特に馬の肉を人肉と疑って口にしようとしない若狭との劇的な対立の場面は演出も傑出しており、ほんとに泣かせる。アシュラを演じた大ベテラン野沢雅子の力演も評価されるべきだ。いかにも大人の事情でとってつけたようなラストの雑なまとめは見なかったことにしたい。
■製作は創通、東映アニメ、バンダイビジュアルほか、制作は東映アニメ。