俺の妹に手を出す奴はみんなぶっ殺す!『やくざ絶唱』

基本情報

やくざ絶唱 ★★★
1970 スコープサイズ 92分 @アマプラ
企画:藤井浩明、林万夫 原作:黒岩重吾 脚本:池田一朗 撮影:小林節雄 照明:渡辺長治 美術:矢野友久 音楽:林光 監督:増村保造

あらすじ

■父親の違う妹(大谷直子)を溺愛するやくざの兄(勝新)は妹に懸想する男を半殺しの目に合わせる凶暴な男だ。だが18歳の妹は兄の元を離れることを決意し、教師(川津祐介)のアパートに向かうが。。。

感想

■なんとなく以前に観たと思いこんでいたのだが、初見だったので驚いた。観ていたのは池広一夫の『喧嘩屋一代 どでかい奴』だったらしい。森田富士郎キャメラで、勝新がラストで機動隊に蜂の巣にされるシーンだけが強烈に印象に残っている。本作はなんと黒岩重吾の「西成山王ホテル」に所収の「崖の花」が原作なのだ。ということは日活の『落葉の炎』と兄弟映画なのだ。でも、原作どおり大阪の話にしてほしかったなあ。
maricozy.hatenablog.jp

大映末期の作品なので、増村組の作法がスタッフに行き渡り、台詞は大声で棒読みになるし、効果音は極大でミックスされるし、なんというか様式が独り歩きしているような危うさがある。このメソッドはそのまま大映ドラマに引き継がれるのだが。

■トルコにつとめる勝新の女が太地喜和子で増村監督の意向を忠実に演じて、半狂乱の演技が凄い(うざい)ことに。彼女は監督のいうことを素直に聞いただけだと思いますけどね。実質主役の大谷直子も台詞の発声が増村メソッドだし、そもそも直截な台詞も、あんな台詞は増村しか書かないと思うのだが、本当に池田一朗が書いているのだろうか。そもそも近親相姦的な関係を、太地喜和子が第一幕早々に台詞で指摘してしまうのも、わかりやすいのはいいけど、本来ならもう少し仄めかしながら明かしていく段取りで、そこにサスペンスが生まれるはずなのだが、あれで良いのかなあ。

■原作小説ではどうも妹が主役になっているようで、実際のところ兄の人間像にはあまり綾がつけられない(妹しか眼中にないので心が揺れないから葛藤がない)ので、愛する男ができて兄を捨てる選択をする妹のほうにドラマが発生する仕掛けになっているのだから、当然のこと。映画では勝新の大暴れが尺を食うから、大谷直子がいまいち生きない。まあ、演技的な問題もあるし、お話の展開がかなり強引なので、突然、お兄ちゃん死んで!私も死ぬ!と言い出しても、さすがに性急かつ唐突で説得力は薄い。この時期の増村映画の弱点でもある。

■でも、増村のことだからお話の構成としては堅牢だし、テーマは明瞭だし、なにしろ林光の音楽が逸品なので、たいそう得をしている。増村の演出タッチはいつもどおりだけど、林光のリリカルなメロディだけで、必ずしも俳優が意図的に演じてい、なにか違うニュアンスを導入してしまう。お話自体は東映の実録やくざ映画をもっとシンプルに煮詰めたものだけど、東映では出せない叙情的なニュアンスがあって、そこが大映の増村映画のオリジナリティなのだ。実際、大映崩壊後に東映で実録的なヤクザ映画を撮っても不思議じゃない作風なのだが、東映には同世代の深作とかいるから気兼ねしたのかなあ。


参考

maricozy.hatenablog.jp
大映末期の作品は露骨な低予算番組だけど、増村ワールドは濃縮され、それゆえにかなり奇矯な映画になっていった。部分的に期せずして喜劇になった部分もある。
maricozy.hatenablog.jp
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原作小説は最近再刊されて売れてるらしい。やっぱり買おうかなあ。

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