交通戦争で一儲け?うちの父ちゃんはアコギな『示談屋』

基本情報

示談屋 ★★★☆
1963 スコープサイズ 80分 @アマプラ
企画:久保圭之介 原作&脚本:安藤日出男 撮影:萩原泉 照明:大西美津雄 美術:柳生一夫 音楽:山本丈晴 監督:井田探

感想

■1960年代の日本は交通事故が激増して「交通戦争」と呼ばれた時代だった。そのなかで迅速な交通事故解決を図るためあくどい「示談屋」が横行した。自らすすんで示談屋家業に打って出たおやじ(小沢栄太郎)だが、その気弱な息子(川地民夫)は自動車会社の事故対応担当でノイローゼ気味。しかも事故で顔に酷い傷を負ったモデルの女(松本典子)に同情して結婚すると言い出す始末。。。

■主役はえげつない関西弁の示談屋を演じる小沢栄太郎で、安藤日出男が関西テレビに書いたオリジナル脚本が原作なので、その名残か。川地民夫は準主役で、気の弱い生真面目で初な若者を好演する。しっかりした取材に基づいて描かれた密度の濃い脚本で、さすがに見事。ただ、終盤の急展開はちょっと尻切れトンボ感が残り、そこは残念。日活映画にしては珍しく音楽が湿っぽいのも非常に惜しいなあ。

■示談屋の周囲に小池朝雄、藤村有弘といった曲者が蝟集して大声でわいわいやりあうだけで楽しい気分になってくる。小沢栄太郎小池朝雄もどぎついくらいのオーバアクト気味で、それは監督の指示なのだろう。まるで後年の東映映画なみのアクの強さ。藤村有弘はお得意の在日朝鮮人役を嬉々として演じて切れの良い演技を見せる。短い場面だけど演技にメリハリが効いているので、スタッフにも受けが良かっただろうな。待ってましたとクライマックスに特別出演的に登場するのが杉村春子で、演出もすごく気を使っているのが可笑しい。

■おなじみの佐野浅夫川地民夫の上司役をリアルに演じる(セリフが実によく書けているんだな)し、自動車会社の顧問弁護士は大森義夫で、よれよれの廃人役から弁護士まで意外と器用に演じ分ける人なのだ。

■この時期の日活のモノクロ映画の美点で、隅田川河畔でのロケ撮影がここでも秀逸で、ここはシネスコの画角が威力を発揮する。日活映画の街頭ロケ撮影は、スターを撮るというよりも、街並みごとリアルな情景を生き生きと撮ることに秀でていた。民芸映画社の撮影スタッフが卓越していたけど、日活本体ももちろん負けていない。

■監督の井田探はちょっと掴みどころがない人で、時々何を思ったのかシビアな社会派映画を撮った人。特に以下の二作は明らかに特定の主義者にしか思えないけど、ほとんどの映画は通常の娯楽路線なのだ。

■今気がついたけど、お話の構成が因果物語になっていて、「親の因果が子に報い」というかなり古臭い残酷劇の構成になっている。小沢栄太郎のどぎつい「示談屋」稼業の悪行が息子に祟る。だから交通事故で顔面に大きな傷を負うモデルはお岩さんと呼ばれるわけ。でも、基本的に喜劇タッチなので、同時期の今村昌平なども意識していたのではないか。

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