LSDを抱いて翔べ!『野良猫ロック マシン・アニマル』

基本情報

野良猫ロック マシン・アニマル ★★☆
1970 スコープサイズ 82分 @DVD
企画:葛西雅美 脚本:中西隆三 撮影:山崎善弘 照明:高島正博 美術:佐谷晃能 音楽:たかしまあきひこ 監督:長谷部安春

感想

野良猫ロックシリーズの第4弾は、脱走米兵を国外に逃亡させるため、岩国から横浜へやってきた男たちが資金のためにLSDを売りさばこうとするが、LSDを狙ってスケバングループや暴走集団ドラゴンが横槍を入れるというお話で、傑作だった第3作に比べると全体に調子が低くて、かなりルーズな印象。でもそれは意図的なものに見える。前作『セックス・ハンター』がシリアスな悲劇だった反動でもあるだろう。

■スケバングループを率いるのはもちろん梶芽衣子だが、後の「さそり」のような凶暴性はなく、意外と気のいい姉御で、岩国からやってきた藤竜也と岡崎二朗を庇うことになる。対するバイカーたちを率いるのが郷鍈治で、その背後に車椅子に乗った范文雀が控えるという構図だが、郷鍈治も范文雀もドラマ的には描写が浅く、あまり成功していない。

■実質的にドラマを担うのは、おそらく大学生崩れのノボで、脱走兵とともに国外に脱出することを願っている青年。藤竜也がこれまでのトレードマークだった髭を落として、つるつる顔の若者(ぎりぎり)として登場する。ただ、脚本が中西隆三だからなのか、その人物造形は平板で、もっと面白い人間になるはずだし、テーマ性のあるドラマを背負うべき男だが、それは控えめ。誰でもないノーボディだからノボ。そして、最後は担いだ神輿の脱走米兵を失い、相棒の岡崎二朗も失って、夢見た祭りが始まる前に潰えてしまった虚しさ(70年安保の挫折、そしてシラケムードへ)を抱えて故郷へ向かう。その虚無感が70年という、熱い政治と闘争の季節の終焉を表現しているはずは、はずなのだが、監督はあまりそこに肩入れはしていないようだ。前作で十分やり尽くしたということかもしれない。

■でも風俗的な活劇としては面白くて、クライマックスのホンダのミニバイクを駆使した追跡場面はコミカルで傑作。当然ながら当時のアメリカ映画やヨーロッパ映画の影響は絶大ですね。本作は悲劇性よりも気楽な活劇性を優先したようだ。

■ちなみに、太田とも子が劇中で歌う「恋はまっさかさま」(!)という楽曲はダウン・タウン・ブギウギ・バンド以前の宇崎竜童の作曲だよ。さすがに初めて聞いたけど、さすがにちょっと泥臭いね!
www.nikkatsu.com


参考

maricozy.hatenablog.jp
伝説の野良猫ロックシリーズ!ファッションとか楽曲とか、70年代の空気感とかすべてが眩しい。
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
こんな野良猫映画もありましたとさ(忘れてた)。釜ヶ崎の野良猫は、乙羽信子なのだ!
maricozy.hatenablog.jp

© 1998-2024 まり☆こうじ