友和よ、その髪型で出征する気か!?『風立ちぬ』

基本情報

風立ちぬ ★★★
1976 スコープサイズ 94分 @NHKBS
原作:堀辰雄 脚本:宮内婦貴子 潤色:若杉光夫 撮影:前田米造 照明:川島晴雄 美術:大村武 音楽:小野崎孝輔 監督:若杉光夫

感想

■原作小説は昭和初期の戦前の話だけど、戦時中の時代設定に変更して、外交官の娘と大学生の難病悲恋映画に仕立て上げた一作。ホリ企画制作の製作で、東宝が配給した百恵&友和映画のヒット作だけど、このたび初めて観ましたよ。

■何しろ監督及び潤色が若杉光夫で、もともと大映京都の助監督で黒澤明にも付いたけど、その後レッドパージで民藝映画社の所属となり、日活映画のリアリズム路線を牽引した地味ながら実力派の監督なので、変な期待をしてしまうわけですが、本作はどちらかといえば吉永小百合浜田光夫のコンビを売り出した変格純愛映画『ガラスの中の少女』を撮った功績を買われたものではないか。

■時代背景を戦時中に変更して、戦時下の学徒の屈折した想いを吐露するあたりが若杉光夫の潤色と思われ、実際に戦争中に京大法学部で過ごした苦い記憶が込められているだろう。しかし、いずれは学徒動員で戦地で散る運命を受け入れる若者たちの真情が切実に描かれたかといえば、かなり心もとなくて、笠原和夫の『大日本帝国』の篠田三郎夏目雅子を観たほうがずっと胸に迫る。

■その意味で、あまり若杉光夫らしくない気もするが、もともと日活時代から声高にメッセージを叫ぶ映画は撮っていないし、そこがこの監督のいいところだったから、誠実な難病映画を撮りあげたことだけで、褒めてあげていい。でも、貧乏を描くのは上手だけど、ブルジョア階級の生活を描いても、あまりぐっと来るところが無いねえ。きっと、貧乏なカップルの純愛難病映画だったら、若杉光夫らしさが冴えただろうに。むしろ『伊豆の踊子』の脚本が、らしくて素晴らしかったよね。

■ただ、友和の髪型だけはどうにかしてほしかったね。学徒動員で出征するまでいつものあの髪型だったからね!髪型が途中で丸刈りに変わるだけで、戦時中の青春の痛ましさが実感されると思うのだが、恋愛映画としての甘さが優先されてしまったのは若杉光夫らしくないと思うぞ。

■友和の兄でゴリゴリの軍人を演じるのが何故か森次晃嗣で、最後には友和と百恵の仲を後押しする儲け役。実に良い役で、この当時結構売れっ子だった森次晃嗣の代表作でもあるだろう。当然のように民藝メンバーが大挙出演するが、宇野重吉は1シーンだけでした。もっと出だして!


参考

maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
若杉光夫は日活でホントに地味な良い映画をたくさん撮ってましてね。もっと注目されるべきです。日本のケン・ローチと呼んであげて!
maricozy.hatenablog.jp
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