まるで元祖・傷だらけの天使?『美しい十代』

基本情報

美しい十代 ★★★
1964 スコープサイズ 79分 
企画:水の江瀧子、林本博佳 脚本:宮内婦貴子 撮影:姫田真左久 照明:岩木保夫 美術:中村公彦 音楽:伊部晴美 監督:吉村廉

感想

■ヤクザ志願のチンピラ(浜田光夫)が地方から上京した小娘(西尾三枝子)と出会った。彼女は市場で働きながら夜学に通う真面目な青年(三田明)と知り合い感化されるが、好きなのはやっぱりチンピラの方だと気づく。だが、兄貴分から敵対組織の幹部を殺って男を上げるように唆されたチンピラは。。。

■実に勿体ないのはお話の核がはっきりしないところで、浜田光夫と市川好郎のチンピラコンビを明確に中心としたほうがすっきりしたと思う。終盤のドラマ的なクライマックスが彼らのエピソードになっているのだから。おまけに、終盤でこのコンビの場面が異様に凝った映像で描かれて、作者の本心がどこにあるかが明白になるのだ。その意味で、このチンピラコンビを見ているとまるで「傷だらけの天使」の修と享に思えて仕方ないのだ。

■主演というか狂言回しのように見える西尾三枝子の新人デビュー作で、硬いけど変に動じない存在感があって、妙に貫禄がある。若いし、まだ後年のようなお色気も少ないのだが。

■撮影の姫田真左久と照明の岩木保夫は今平組の『にっぽん昆虫記』の後に本作を撮り、続いて『赤い殺意』を撮っているので、とにかく大充実期の仕事ぶり。お得意の昭和チックな野っぱらのロケ撮影はおなじみの移動や夕陽の入れ込みが絶妙で、撮影賞レベルの流麗な撮影。モノクロ撮影が絶妙という印象がある姫田キャメラマンだが、カラー撮影ではとにかく夕陽の活かし方、切り取り方がいつも絶品で、あれだけはモノクロ撮影では絶対に出せない味。後年の『野獣を消せ』の冒頭シーンの絶品撮影もそうだったよね。

■さらに凝っているのは終盤のチンピラコンビが苦しい選択を迫られる場面で、コントラストの強い思い切った照明効果を使って、このあたりは完全にヤクザ映画の呼吸。特に凄いのは、浜田の代わりに男を上げに突っ走って反対に殺されてしまう市川好郎の遺体の素足に、西尾三枝子が浜田のために編んだ靴下を履かせてやる場面の心情のこもった長廻しで、この場面は知られざる名シーンだ。きっと後に誰かがヤクザ映画で真似しているに違いないぞ。

■実はこの靴下のエピソードは脚本上の工夫の肝で、西尾三枝子が空き地の水たまりにハマって靴下を汚したときに浜田が俺のをやるよと穴の空いた靴下を差し出す場面があって、そのお返しに西尾が編んで浜田に渡し、俺、他人に編んでもらったのは初めてだ、と無邪気に喜ぶ秀逸なロケ撮影場面がある。

■あと、三田明が住む多摩川の土手沿いのロケーションがさらっと凄くて、高低差を意識した画角と画面いっぱいに干されたカラフルな洗濯物が、まるで黒澤映画のようなヴィジュアル。宇野重吉演じる刑事が浜田に鑑別所でやり直すように説諭する場面も、二人の後ろ姿を前進移動で捉えたマジックアワーのロケ撮影が素晴らしく、なんだか姫田真佐久の撮影見本市に見えてくる意外な良作。
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