北風吹きぬく寒い朝に…勤労青春歌謡映画の名作『いつでも夢を』

基本情報

いつでも夢を ★★★☆
1963 スコープサイズ 89分 @アマプラ
企画:児井英生 脚本:下飯坂菊馬、田坂啓吉田憲二 撮影:横山実 照明:河野愛三 美術:木村威夫 音楽:吉田正 監督:野村孝

感想

■1962年に製作され、1963年の正月に公開された、日活名物の勤労青春歌謡映画。橋幸夫吉永小百合がデュエットする主題歌の「いつでも夢を」は1962年に日本レコード大賞を受賞しているから、日活名物の速成映画だ。しかし、美術が木村威夫だし、それなりの大作仕様でもある。とはいえ、この当時の日活の大作映画は下町を舞台として、町工場で働き、定時制高校に通う(お馴染み!)若者たちの青春映画だ。

■気が強い診療所の医師の娘(吉永小百合)と工場に勤めながら定時制高校に通う青年(浜田光夫)のお馴染みのカップルに、トラックの運転手の気のいい兄チャン(橋幸夫)が加わって、爽やかな三角関係を形作るというものだが、お話の主眼は、苦学しながら商社勤めのホワイトカラーを目指して猛勉強する浜田光夫が学力的には問題ないのに、工場勤めで「世間ずれしている」という差別的な理由で入社試験に落ちるクライマックスにある。

■当然のこと勉強する気も工場に出る気も失せて自暴自棄になる浜田光夫を、親友の吉永と橋がどう慰めるかというところにドラマのクライマックスがある。さらに、その脇に、定時制高校の同級生だけど肺病で入院してしまって、こちらも身の不遇を嘆く松原智恵子(これもお馴染みの役柄)との対比で、浜田が立ち直るまでを描く。

■家出していた父親が交通事故で身障者になり、そのために働かざるを得なくなるというその立ち直りに十分な説得力があるかどうかは疑問(こうした展開はご都合主義になりがち)だが、一流商社には落ちたものの、町工場で働き、定時制高校を優秀な成績で卒業した彼のその後は高度経済成長の経済拡大にのって、それなりに充実したものになったに違いない。というか、そう信じたい気持ちになる。

■野村孝がこうした歌謡青春映画を撮るのも異色な感じだが、非常に落ち着いた明るいタッチで、横山実のオーソドックスなキャメラワークも丁寧。日活では姫田チームなどに比べると地味に見えるのだが、本作では滑らかに回り込む移動撮影が効果を発揮して、クライマックスの河原のロケなども雄大で明朗で素晴らしい。こうした朗らかな明るさはこの時代の映画ならではの美質なので、なにものにも代えがたい。

■また定時制高校の仲間たちが夜の工場脇の土手を「寒い朝」を合唱しながら歩くというお馴染みの場面があって、ここも実に胸に迫る。吉永小百合の歌よりも、合唱というシチュエーションが実に歌の歌詞にマッチしていて、終盤で松原智恵子が口にする勤労者の詩にも呼応して、素直に感動的。こんなに良い詩だとは思わなかったし、何気ない名場面で、ちょっと泣ける。

ちなみに「寒い朝」の楽曲は、1962年6月公開の吉永&浜田コンビ作『赤い蕾と白い花』(未見)の主題歌として大ヒットしたんですね。そして、その年末にNHK紅白歌合戦に出場した。いわば、紅白歌合戦でもう一度注目されたタイミングで新作映画を投入するという日活らしい商売上手。

■まだ世の中に出ていく前の、さまざまな重圧や不遇に耐えながらも、雪の下でも春を待ちながら芽を育て、しっかりと地面に根を張ろうとしている若者たちを、大人として素直に応援したくなる、そんな素敵な映画。即席の青春歌謡映画だけど、それ以上の輝きを手にしてしまった映画だ。
www.nikkatsu.com

参考

この時代、浜田光夫は不遇をかこつ(でもメゲない!)勤労青年の象徴であり希望だった。
maricozy.hatenablog.jp
ある意味でこの映画『川っ風野郎たち』は本作の焼き直しなのかもしれない。でも若杉光夫なのでもっとリアル実録路線で、ユーモアと歌がない。あ、和泉雅子が歌うけど!
maricozy.hatenablog.jp
この映画『キューポラのある街』の成功がこうした勤労青春映画を日活に路線として定着させた。日活映画の歴史上の最重要作品のひとつ。
maricozy.hatenablog.jp

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