パーマ屋スミレ ★★★☆

■脚本・演出:鄭義信 音楽:久米大作 劇場:新国立劇場小劇場(2012)

■出演:南 果歩、松重 豊、根岸季衣、久保酎吉、森下能幸、青山達三、酒向 芳、星野園美

■こちらはケラの『三人姉妹』とは正反対で、すべての要素がビンビン胸に迫る。『焼肉ドラゴン』の少し前の時代に筑豊の炭田地帯に存在したアリラン峠の朝鮮人スラムを舞台に、時代に流されて苦しみながら生き、どこかで朽ちていった人々へのレクイエムを描く。『焼肉ドラゴン』の完全なる姉妹作。鄭義信にしか描けない独壇場の素材であり世界観である。

■炭鉱での一酸化炭素中毒事故を扱った異色のドラマでもあって、社会の底辺を支えた人々が日本の片隅でどんな思いで生きて、舞台から退いていったかをビビッドに描く。台本もいいけど、演出も非常に鮮烈で、いわゆるカッコいい舞台転換などは無しで、ワンセットだけでケレン頼りはないのだが、吉本新喜劇松竹新喜劇等で馴染んだ、庶民たちの絡み合いが面白おかしく描かれるのが、とにかくすべてにおいてしっくりくる。生活は苦しいし、なぜそれでも生き続けるのかと問いながら、それでも怒ったり、笑ったりしながら日々が紡がれてゆく庶民の生活史が圧倒的なリアリティと説得力を持つ。

南果歩の踏ん張り方も若い頃から知っているから感慨深いものがあるし、松重豊の演技が絶妙なのも、当然とはいえ、凄い。鄭義信ならではの太り女愛を本作では星野園美が担っていて、これは役得。単なるコメディリリーフではない血の通った太り女の心を切々とうたい上げる。それは時代に切り捨てられた弱きものは、決していなかったわけではなく、この世界の片隅に生きることも許されずに、そこから追い落とされたのだということを強く訴える。歴史に名を残さないものたちの血や涙や怨念で今が成り立っていることを思い出させる。

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