信さん 炭坑町のセレナーデ
2010 ヴィスタサイズ 108分
京都シネマ
原作■辻内智貴 脚本■鄭義信
撮影■町田博 照明■木村太朗
美術■安宅紀史 音楽■安川午朗
VFXスーパーバイザー■石井教雄
監督■平山秀幸
■1963年、炭坑の島に出戻ってきた母子が信さんという少年と出会ってから、1970年代に入って炭坑が廃れてゆくなかで思わぬ別れが訪れるまでを年代記風に描いた異色のメロドラマ。一連の昭和ノスタルジー路線で、炭坑町の衰退を描いた映画かと思いきや、物語の核心は、20歳以上も年齢の異なる奇妙な恋愛感情を描いた堂々たるメロドラマなのだ。よくもまあ、こんなに変な話を丁寧に大作映画として拵えたものだと、いたく感心する。
■何しろ、小雪が息子の知り合いとして初めて出会った小学生の男の子にいきなり濃厚な感情を抱いてしまうという信じがたい展開に唖然とするのだが、その信さんという年下の男とのラスト近くでの別れの場面など、近頃とんと見かけない大メロドラマ的展開が用意されており、まさに不意打ち的に泣かされる。平山秀幸が「愛を乞うひと」以来のメロドラマ作家としての資質の高さを見せつける。ほんとに凄いぞ、平山秀幸。
■なんだか「焼肉ドラゴン」のような展開だなあと思ったら、脚本は鄭義信が担当しており、在日朝鮮人の友人を柄本時生が演じて、非常にいい味を出している。その胡乱な存在感はただ事ではない。その少年期を演じる子役も、もう見た目だけで100点満点のリアリティを醸し出す見事な配役。他にも、大竹しのぶ、岸部一徳、江口のりこ、中尾ミエと配役は妙に豪華だ。例によって村上淳も重要な役で登場するが、相変わらず、誰ですか?状態だよ。
■炭鉱の島の情景とか、炭坑事故の場面などに、オムニバス・ジャパンのVFX技術が披露されるのだが、これも地味ながら質が高く、特に落盤事故の合成カットは見事なリアリティだ。特撮をスペクタクルな見せ場として演出はされていないが、遠景の合成ショットで、炭鉱住宅の住人達の人生が一気に偏重してゆく不吉さをよく表現している。黒く立ち上る噴煙のような爆炎(?)はフルCGだろうが、よくできている。
■制作はフェロー・ピクチャーズ。