サイドカーに犬 ★★★☆

サイドカーに犬
2007 ヴィスタサイズ 94分
DVD
原作■長嶋有 脚本■田中晶子、真辺克彦
撮影■猪本雅三 照明■金沢正夫
美術■三浦伸一 音楽■大熊ワタル
監督■根岸吉太郎

■日常に疲れたOLの主人公(ミムラ)は、ふと20年前の小学4年生の夏休みを回想する。母親が家出して、父親の愛人ヨーコ(竹内結子)が転がり込み、自転車の乗り方を教わったのを始めとして、少女の世界がヨーコに導かれて拡がっていった、あの夏休みのことを・・・

相米慎二の「お引越し」なども思い出される夏休み映画の佳作。竹内結子ガリガリなのにも驚くが、主人公の少女時代を演じた松本花奈の敏感な演技センスにも驚かされる。ちょっとおどおどしながら、ヨーコの言動の奔放さに驚きながらも惹かれてゆく様子を繊細に表現する。

■少女の子供の世界から大人の世界へ視界が開かれてゆくのと同時に、ヨーコと父親(古田新太)の煮え切らない大人の関係を微妙なタッチで描き出してゆくあたりは日活出身の監督ならではの手際で、伝統芸の冴えを感じさせる。竹内結子は技術的には十分な働きなのだが、個人的にはあまり魅力を感じない。どうにも映画の中には納まりの悪い存在であった古田新太が肩の力を抜いた演技で巧に映画のなかに溶け込んだのは、監督のおかげだろうか。

■1シーンだけ登場する樹木希林が真骨頂を示す怪演で、場をさらうのも実に楽しい。暫くの間、あまりその名を聞かなかった根岸吉太郎の復調は嬉しいことだ。本来ならもっとメジャー路線を背負うべきベテランなのだが、身の丈にあった小さな世界で、こうした清々しい名品を残すタイプの映画監督なのだろう。


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