この国の空
2015 ヴィスタサイズ 130分
イオンシネマ京都桂川
原作■高井有一 脚本■荒井晴彦
撮影■川上皓市 照明■川井稔
美術■松宮敏之 音楽■下田逸郎、柴田奈穂
監督■荒井晴彦
■荒井晴彦が東映京都撮影所で撮った戦争末期の処女喪失の物語。関係を持ってからのドロドロした不倫劇が主眼かと思いきや、そこに到るまでを丹念に見せる端正な映画。撮影は黒木和雄とのコンビで庶民と戦争の関わりを描いてきた川上皓市がフィルムで撮影した。『日本のいちばん長い日』を観たあとでは、さすがにルック的に厳しいし、夜間場面が多いので照明効果についてはもう少し工夫があってもよかったと思う。
■二階堂ふみの処女喪失と日本がはじめて戦争に負けるという初体験を重ね合わせるというのが着想のキモで、ヒロインにとっては隣の旦那との不倫劇の始まり、女にとっての戦争の予感を字幕で明示して終わるし、”戦争を知らない世代”にとっては、女が不倫関係に身を焼かれる様もまた戦争なのだというアンチテーゼの提示になっている。ただ、こういう終わり方をされると、その戦後こそ見たかったのにという気分になってしまうから、少し困る。
■隣の旦那を演じるのが我らのハセヒロこと長谷川博己で、『進撃の巨人』の漫画演技とはうってかわって、オトナの色気ムンムンで演じます。あのでかい口で、深夜に熟したトマトをもしゃもしゃと咀嚼する場面は、シネコンの音響装置の威力の見せ所で、生々しい効果音がエロいことこの上ない。
■ヒロインの母親が工藤夕貴というのも感慨深いが、この母親が、隣の旦那はお前のことを思いながら妄想しているに違いないんだ、男とはそんなものだと説諭して聞かせる、ちょっとエキセントリックな女を演じる。それでも戦時中のことなので、男と関係を持てるだけ幸せという現実感覚。内心、自分が代わりたいというニュアンスを言外に含んでいるわけで、ああ恐ろしい。一方、富田靖子が工藤夕貴の姉というのは面白みが無く、もっと自然なユーモアを感じさせる配役でないとアンサンブルの面白さが出ない。