嫌われ松子の一生 ★★★☆

嫌われ松子の一生
2006 ヴィスタサイズ 130分
TOHOシネマズ二条(SC9) 
原作■山田宗樹 脚本■中島哲也
撮影■阿部正一 照明■木村太朗
美術■桑島十和子 音楽■ガブリエル・ロベルト、渋谷 毅
ビジュアルエフェクト■柳川瀬雅英 VFXプロデューサー■土屋真治 CGディレクター■増尾隆幸 
監督■中島哲也


 荒川の河川敷で中年女の他殺体が発見された。彼女が松子(中谷美紀)という叔母であることを知った青年は、関係者から女教師だった彼女の壮絶な転落の半生を知ってゆく・・・

 中島哲也が戦後の時代に波乱の人生を生き抜いた一人の女の壮絶な男性遍歴を持ち前のポップな意匠と色彩感覚で描き出した力作。前作「下妻物語」は正調青春映画だったが、今回は、堕ちてゆく女の半生をなぜか少女漫画風にカラフルに描き出すという離れ業に挑む。その意気や良し。

 散々詰め込まれた悲惨なエピソードと、そのたびに「これで人生が終わったな」と何度も感じながら、尚もしぶとく生き抜いてゆくヒロインには、昭和映画の香りが紛々と漂う。もちろん、昭和(戦後)をデジタル技術とミュージカル仕立てでポップに描き出すのがこの映画の狙いだから、それも当然のことだろう。

 中谷美紀は監督に散々苛め抜かれたようだが、その成果は正直あまり感じられない。もともと繊細な心理描写の巧い正統派の女優なので、中島哲也の”人形”になり切ることには相当抵抗があったはずだ。正直なところ他の女優でも成立する映画である。

 片平なぎさ本田博太郎の出演は個人的には幸せのツボだが、それよりもなによりもミュージカルの趣向がうまく成功していることに感動する。世代的にも「恋人よ」には泣かされたし、荒川の夕景を描いたカットの島倉二千六風(多分、別人がタッチを真似ているのでは)のマット画の夕焼け雲の切なさにも泣けた。

 しかし、ラストの数分は蛇足。多分、ああいうシーンを入れないとプロデューサーが納得しないのだろうが、バッサリとカットしてクールに締めくくってくれないと、せっかくの突き抜けた映像感覚が失速してしまう。多分、監督自身もよくわかっているだろうから、これからは是非プロデューサーともっと戦って欲しいものだ。この映画の成功でもはや若き(若くも無いか)巨匠の仲間入りを果たすはずだから、次回作はもっと思い通りに締めくくるべきだ。

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