土曜ワイド劇場 盗まれた情事 ★★★☆

盗まれた情事
1995 スタンダードサイズ ?分
テレビ大阪録画
原作■連城三紀彦 脚本■荒井晴彦高木功
撮影■林淳一郎 照明■前原信雄
美術■古谷良和 音楽■?
監督■神代辰巳


 全共闘世代の中年医師(三浦友和)は妻との関係も冷え、かつての同士は、ある者は癌で死に、ある者(火野正平)は映画館を畳んだりして、それぞれ学生運動の収束後のひとつの時代を終えようとしていた。そんなとき、投稿雑誌に誘われた医師は、下半身付随の男から妻を抱いてくれと誘われ、女(余貴美子)を抱くが、次第に彼女にのめりこんでゆく。ところが、ある日ホテルで密会中に男は射殺される。医師は、下半身不随の男は父親から数十億円の遺産を相続した元カーレーサーだったことを知るが、男の妻だと彼の前に表れたのは、あの女ではなく、別の若い女高島礼子)だった・・・

 土曜ワイド劇場で放映されたテレビ映画の再放送だが、思わぬ秀作で、テレビ映画の枠を超えている。神代辰巳の映画は正直あまり食指が動かないのだが(「地獄」は好きだけど)、むしろ「傷だらけの天使」や2時間サスペンス枠でのテレビ映画を、テレビドラマというよりもむしろ濃厚な映画性を発揮する短編映画として撮りあげてしまう変な人という印象がある。

 本作のほかにも荒井晴彦や高田純と組んだ2時間サスペンスがあったはずだが、本作はかなり出来の良い部類に入るに違いない。なんといっても、団塊の世代のなかでも一握りの集団(とはいえ、分母が大きいから絶対数も少なくないのだが)であった全共闘の闘士たちのその後の無様な生き方、死に様を、新しい世代との対比、女たちの思惑との対比のなかで浮かび上がらせてゆくという間口の狭いドラマなのだ。

 断崖好きのオバサンたちやポロリ好きのオッサンたちの思惑をはるか遠くに置き去りにしつつ、荒井晴彦節が神代辰巳の超絶演出で暴走する。とはいえ、共同脚本に高木功が参加しているためか、荒井晴彦のナルシスティックな文学趣味は希薄で、そのことが完成度を高めている。ミステリとしては色々無理もあるものの、三浦友和もういちど訪れた”青春”の蹉跌を描き出すことについては、かなり成功している。これが例えば萩原健一だったりすると、ナルシシズムにしか見えず、観ていてしんどくなるに違いない。間違っても全共闘などには見えない三浦友和の配役も成功の一因だろう。

 特に病院の屋上で田口トモロヲ三浦友和を強請って、好き勝手に暴れまわって、結局何も壊せず、何も変えられなかった世代に対するルサンチマン(憧れの裏返しでもある)を吐露する場面が傑作で、三浦友和のそれに対する切り返しが作者の真情をストレートに打ち出して爽快ですらある。

 テレビ映画という枠組みのせいで、脚本も演出も必要以上にぐじぐじする余地が無かったことが、本作の成功の秘密に違いない。

参考

原作小説「盗まれた情事」はこの本に収録されていますね。まだ入手可能です。

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