小松左京著『地球になった男』

■古本屋で105円で買った中古の新潮文庫だが、70年代初めの出版の割に状態が良く、現在の文庫より文字が小さいのだが、昔は全部こんな感じだったから、かえって読みやすいことを確認した次第。小松左京が「日本沈没」出版以前に自選した短編集の第一弾。昔の新潮文庫は、紙質、字体、ボリューム等々、書籍の肉体性が個人的にベストマッチで、思い入れが深いのだ。手になじんで、とても読みやすいのだ。

■地には平和を、コップ一杯の戦争、紙か髪か、日本売ります、痩せがまんの系譜、ご先祖様万歳、オルガ、ぬすまれた味、兇暴な口、地球になった男、蜘蛛の糸、沼、昔の女、と傑作揃い。既読の短編も多いが、コップ一杯の戦争(ショートショート)とか、痩せがまんの系譜、オルガ、地球になった男などが初読で、印象に残った。痩せがまんの系譜はうまくやれば、映画やドラマにできそう。地球になった男のスケールの大きな奇想はただただ楽しい。オルガは、人類の種としての晩年を描く逸品。21世紀初頭、既にその兆候は実在する。

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