『仄暗い水の底から』

基本情報

仄暗い水の底から
2002/VV
(2002/1/20 京都宝塚)
原作/鈴木光司 脚本/中村義洋,鈴木謙一
撮影/林淳一郎 照明/豊見山明長
美術/中澤克巳 音楽/川井憲次
視覚効果/橋本満明 特殊効果/岸浦秀一 特殊メイク/松井祐一
監督/中田秀夫

感想(旧HPより転載)

 ひとり娘の親権を巡って離婚調停中の主人公(黒木瞳)は古びたマンションに引っ越すが、謎の雨漏りや怪しい人影、そして捨てても捨てても手元に舞い戻ってくる子供用の赤いバッグといった怪異が娘の身の回りで頻発するため、精神的に追いつめられてゆく。そして娘の通う幼稚園では同じくらいの年齢の女の園児が行方不明になっていることを知るのだが・・・

 「女優霊」「リング」リング2」に続く中田秀夫久々のホラー復帰作だが、高橋洋とのコンビによる挑発的な恐怖演出とは一線を画した、オーソドックスな意味合いでウェルメイドな怪奇映画になっている。じわじわと恐怖感を煽る地の場面もさることながら、ここぞという狙い澄ました虚仮威しの場面も実に見事に成功させており、まさにホラー演出に関しては自在な筆さばきを見せてくれる。

 物語に関しては予告編やスチール写真等から予想できる範囲から一歩も出ていない、どちらかといえばありふれた種類の着想を、そのまま素直に構築したもので斬新さは皆無だが、心細い境遇の主人公が心理的に追いつめられてゆき、離婚調停で我が子を失うかもしれない不利な立場に立たされるという現実的な危機が丁寧に描かれているあたりには苦心の跡がうかがえる。

 ただ敢えて難点を上げるならば、例えば「ローズマリーの赤ちゃん」などと比較すると古びたマンションの舞台設定が怪奇映画的な抒情を担うというよりも、一歩間違えれば単に貧乏くさくみえてしまいかねないという誤算の見逃すわけにはいかないだろう。「学校の怪談」シリーズや「愛を乞う人」といった平山秀幸の作品で高密度な美術世界を印象づけた中澤克己の働きは、ここでも大きな成果を上げているのだが、リアリズムに走るあまり怪奇映画の持つ独特の廃墟美とでもいうべき或る意味での様式的な華やかさを欠いてしまったのが気に掛かる。

 また、せっかく優秀な子役が亡霊に誘われる主人公の娘役を熱演して観客の同情を一心に引きつけておきながら、ラストにミス東京ウォーカーの登場で台無しにする構成の拙さも明記しておきたい。この蛇足なエピローグのおかげでこの映画の評価は確実に☆ひとつくらい下がってしまった。

 しかし「リング」でも感じたことだが、子供や子供のいる情景を怖く見せる演出手法の手際の鮮やかさは中田秀夫の天性の素質なのではないだろうか?主人公の娘が嬉しそうにあの禁じられた赤いバッグを開けようとするカットの怖さは卓越した編集技巧も相まって出色だ。

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