スペイン内戦下、孤児院に預けられた少年は、少年の姿をした亡霊に遭遇し、何事かを訴えようとしていることを知る。一方、孤児院に隠された人民戦線の軍資金を狙って、若い雇員ハチント(エドゥアルド・ノリエガ)は義足の女院長に取り入り、策謀を巡らせていた・・・
メキシコのオタク監督ことギレルモ・デル・トロがペドロ・アルモドバルに招かれてスペインで撮った怪奇映画。だが実際は、怪奇映画というよりも寓意的なアクション映画といった風情で、恐怖映画を狙ったものではない。監督自身はゴシック・ロマンスだと語っているが、変格的な西部劇とも呼べそうだ。
実際のところ、スペイン内戦についての知識がないと、この映画の半分も理解できないのであろう。純粋な怪奇映画として見ると、ハチントという人間が単なる性格異常者にしか見えないが、監督がコメンタリーで述べているように徹底的に政治的人間(=ファシスト)と捉えると、映画に込められたスペイン内戦を巡る寓意が浮かび上がってくるという仕掛けだ。
大人たちは死に絶え、連帯だけを頼りに荒野に進み出る少年達と、廃墟と化した孤児院に呪縛された亡霊という対比の中に希望を託したラストシーンは、アクション映画の趣である。しかも、60〜70年代に多く生み出された政治的なアクション映画のそれである。亡霊は怪奇映画的に超自然の存在というよりも、寓話における象徴として表現されているのだ。
デル・トロという監督、日本では気安くオタク監督と呼び捨てにされているが、コメンタリーなどを聞くと、チンピラ映画記者など及びもつかない正統派のインテリ監督である。ただ、その理知が災いしてか、映画的に物語を語ることには不器用な面があり、派手なキャメラワークを含む映像スタイルはハリウッド的で、よく言えばハイブリッド、悪く言えばちぐはぐな印象がある。
因みに、監督によるDVDのコメンタリーは必聴。「オトラント城奇譚」を振り出しにゴシック・ロマンスの歴史と特徴について講義があり、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」はブラックウッドの傑作怪奇小説「柳」の世界だと喝破したり、ハリウッドでの映画作りを批判したり、2時間あまりデル・トロが喋り尽くす。ラム酒に漬けられた「悪魔の背骨」胎児についても、その出自が明かされるので、聞き逃せないぞ。