パンズ・ラビリンス ★★★★

EL LABERINTO DEL FAUNO
2006 ヴィスタサイズ 119分
MOVIX京都

1944年、内戦が終結フランコ軍事独裁体制に入ったスペイン、民主化勢力は山に篭ってレジスタンスのゲリラ戦を展開している。臨月の母親と山の軍事拠点を守るビダル大尉のもとへやってきたオフェリアは、過酷で残酷な現実の中で、妖精と遭遇し、地下迷宮の守り神パンから、喪われた地下王国の姫君だと告げられる・・・

 メキシコ出身のギレルモ・デル・トロが自身のルーツを辿って(?)発表するスペイン内戦シリーズの第二作。(ほんとかよ)

 「デビルズ・バックボーン」よりも物語は簡潔に整理されており、感情移入も容易になっているので、アカデミー賞(技術賞だが)をはじめ数々の映画賞を受賞したが、このスペイン内戦シリーズは、ファシズムという政治体制の考察ともいえ、単なるホラーやファンタジーで括れない要素を数多く包含している。いや、正確には、ホラーやファンタジーがそもそもそうした要素を包含しうることを観客に思い出させ、その現代的な見本を提供することを目指していたに違いない。その意味で、デル・トロは、日本のサブカルチャーにも通じたオタク映画人という安易なラベリングに収まりきれない表現者としての幅と知性を備えた逸材のようだ。

 本作では、主人公の少女オフェリアが幻想世界で遭遇する試練と、彼女を暖かく迎えて、ファシズムに対して無力な母親よりも、彼女の現実的な支えとなるメルセデスという女の過酷な現実世界でのサバイバルを構造的に対比させた脚本上の着想が凄いところで、二人の女が現実と幻想の綯い交ぜになった虚実皮膜の間に寓意を浮かび上がらせる。こうしたフィクションの構築の巧みさは、デル・トロの天性の素質であり、並みのオタク系監督の容易に比肩し得るところではない。

 一方でファシズムの権化として君臨するビダル大尉の人物描写にも単純な性格破綻者や機械的な官僚的軍人といったラベリングでは済まされない立体感をもって描かれ、現実世界の悪の象徴として念入りに表現される。ダークファンタジーといった呼び方では足りないくらいに現実的な残酷さが強調される。

 その反面、オタク性も隠そうとはせず、両掌に目玉を嵌め込む奇怪な怪物の表現など、「仮面ライダーZO」で雨宮慶太が創造したコウモリ怪人のギミックをそのまま踏襲している。

 正直なところ「ブレード2」とか「ヘル・ボーイ」などはあまり感心しなかったデル・トロだが、近年はオタク系監督の成熟型として大きく成長し変貌を遂げている。その背景には、製作を手がけるアルフォンソ・キュアロンなどの名伯楽の存在があるのだろうが、かたや日本のオタク系監督、たとえば樋口真嗣雨宮慶太山崎貴はこの域に達することができるのだろうか。

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