スパニッシュ・ホラー・プロジェクト エル・タロット [DVD]
- 出版社/メーカー: video maker(VC/DAS)(D)
- 発売日: 2006/11/24
- メディア: DVD
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REGRESO A MOIRA
2006 ヴィスタサイズ 81分
DVD
思い出のタロットカードに導かれ、老人は故郷の村に戻ってくる。それは死んだはずの初めての女(ひと)からの招待状なのか。40年以上前、村はずれにひとりで暮らし、村人からは魔女と呼ばれて差別される年上の女モイラとの官能に満ちた日々の記憶、そして苦い別れの記憶が蘇る・・・
スパニッシュ・ホラー・プロジェクトの6本の連作のうちの1本で、もともとテレビ映画らしいが、近年活況が続くスペイン製怪奇映画の精髄を見せ付ける小品傑作だ。監督のマテオ・ヒルは、「おもいでの夏」を見事に怪奇映画に翻案している。
近年のスペイン製の怪奇映画は、アメリカ製のホラー映画が、映像、音響技術とシネコンの普及による上映環境の向上を基盤とした、観客と映画の空間を融合させる臨場感を売り物にする拷問映画や残酷映画の方向に傾斜しているのに比べて、より正統的な怪奇映画のテイストを継承しており、物語の構築はハリウッド的な論理性を備えながら、じっくりと登場人物の心理世界を描き出しつつサスペンスと怪奇な叙情を醸成するところに、独自のセンスを発揮しているのだが、本作などその特質が最も美しく花咲いた映画といえるだろう。
演出のタッチは完全に文芸映画や青春映画のそれであり、せっかちに急いだり、無理におどけたり、無意味に煽るようなそぶりもなく、ひたすら着実に老人の人生を鋭い切り口で総括してみせて、見事な結末に収束してゆく。脚本も書いたマテオ・ヒルという監督の才能は、ジャウマ・バラゲロに決して劣りはしないだろう。アメリカのホラー映画が、もっぱら若者向けに製作されるのに比べて、観客層の設定年齢が高いのもスペイン製怪奇映画の特徴だろう。本作など、完全に人生観照風の大人向け映画であり、阿刀田高の短編小説にも似ている。
正直なところ、あまりのレベルの高さに驚嘆した一作だ。
参考
↓ これもマテオ・ヒルが脚本を書いてますよ。こちらも良作。
maricozy.hatenablog.jp