感想(旧HPより転載)
戦後の混乱期に狂犬のような無軌道な暴れっぷりでヤクザ社会を震撼させた実在の男石川力夫の半生を絶頂期の深作欣二が熱っぽく描き出した実録ヤクザ映画路線の一つの達成点といえる力作である。
恩義ある親分(ハナ肇)に襲いかかり、かつての親友(梅宮辰夫)の親身な忠告にも刃で反論するという、ペイ中というだけでは表現できない常軌を逸した狂犬ぶりを渡哲也が持ち前の暗い情念で熱演する。主人公に犯されて情婦となり、結核を病んでついには手首を切って自殺する悲運のヒロインが多岐川裕美で、どん底まで墜ちて朽ち果ててゆく無惨な男と女の境遇を描き出した場面は実録路線ではあまり顧みられなかった淀んだ情感が圧巻である。
後半の主人公は大阪のドヤ街でおぼえた麻薬のせいで、死に場所を求めるかのようにますます狂暴化し、ついには刑務所の屋根から身を投げて血の海に沈むことになるのだが、このあたりになると実際に常軌を逸した麻薬中毒患者の所行ということで、ドラマの介在する余地は少なく、劇映画としての構築性は薄らいでいかざるをえない。
という意味で、深作の映画としては「人斬り与太・狂犬三兄弟」には及ばないように思うのだが。三池崇史によるリメイク「新・仁義の墓場」の仕上がりが気に掛かる。