『花と龍 青雲編・愛憎編・怒濤編』

基本情報

花と龍(’73) 青雲編・愛憎編・怒濤編
原作・火野葦平 脚本・加藤 泰、三村晴彦野村芳太郎
撮影・丸山恵司 美術・芳野尹孝 
照明・三浦 礼 音楽・鏑木 創
監督・加藤 泰

感想(旧HPより転載)

 外国渡航を夢見ていた一介の沖仲士玉井金五郎(渡哲也)がその妻・マン(香山美子)に支えられていつしか若松の港湾労働者の親分に昇りつめてゆくまでを描いた大河ロマン。

 しかし、後半は息子(竹脇無我)と娼婦(太地喜和子)のメロドラマおよび港湾労働者組合設立に対する妨害工作が主眼となって、物語は拡散してゆく。

 この時期加藤泰が松竹大船で撮った映画は「宮本武蔵」にしろ「人生劇場」にしろ大河ドラマを狙ったことが裏目に出て、主人公のエピソードに集約しない脚本構成の拙さとなって表面化し、東映京都での諸作品のような高度な完成度を示すことがなかったのだが、この作品も同じ陥穽に陥っているように思える。全作品の脚本に野村芳太郎なんて手練れが関与しているにしては、不手際ではないかと思われてならない。

 香山美子の演技としてはおそらく最高傑作だろうと思われるが、渡哲也は少々若すぎる。特に後半の老け役は、含み綿のために発声が不自然に悪く明らかに失敗している。渡哲也は「わが心の銀河鉄道」や「誘拐」に見られるとおり、現在のほうが役者としては充実しているのだ。(と断言するのは語弊があるなあ)

 さらに、石坂浩二の老け役という極めて珍しいキャスティングも見られ、しかも博徒なんだから驚く。しかし案外悪くないのだな。身体悪そうな風情が自然で。博打で負けたために盲腸の子供に何もしてやれないでただおろおろしているところを居合わせたマンが手を貸してやる駅の待合室のシーンは、加藤泰の独壇場たるローアングル長廻しがよく効いている。といっても、やはり東映作品に見られる奇蹟のような情感は願うべきもないが。

 しかし、キャスティングとして最も成功しているのは、田宮二郎の相方で後年「ドテラばばあ」と呼ばれる女侠客・沢淑子の怪演で、浪花千恵子でも清川虹子でもなく、加藤組常連のこの異能女優にこそ備わったユニークな人間像が見事にはまり、これ以外のキャスティングは考えられないという意味では、むしろ巧演と評するべきかもしれない。しかもそれでいて田宮二郎と不思議な男女関係が結ばれているという不可解。
(98/10/8 シネマスコープ フィルムセンター)

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